勘違いも捨てたもんじゃない
え?…こんな事…。
ほぼ定時で終わった私は、特に用も無く、いつものように会社を出て左に歩みを進めていた。
別に今日じゃ無くてもいいけど、帰りに少し買い物をして帰ろうか、先に雑貨屋さんに寄って食器を見てみようかなんて、行くかどうか解らない予定を巡らせていた。
一つ区画を過ぎたところ。ハザードを点滅させた黒い車が停まっていた。…心臓が止まるかと思った。
あの場所、あの停め方…。周りにそれらしい人影は無い。では中に。何も連絡は貰っていない。出た後で携帯が震えてもいないと思う。見た方がいいかな。でも、目の前に見えている車が安住さんのものなら今更だ。肩に掛けたショールを合わせ直して歩いた。出て来る様子も無い。カツカツと、もう車の後ろまで来ていた。
横を通り過ぎようとした時だ。行き先を塞ぐように助手席のドアが急に開いた。えっ?あっという間だ。中から長い腕が出て来て、身体を簡単に捕獲されてしまった。あ、…。驚いてはいても、あまりの突然の事に声も出なかった。ドアが閉められた。私は誰かの膝の上に座っていた。
「真希、つ〜かまえた〜」
「む、武蔵さん!」
首を振って確認しようとする私をシートに座らせながら、腰をずらして運転席に移動した。
「シートベルト、して?」
……武蔵さんだ。
「して?」
エンジンはかかったままのようだった。車はすぐに走り出した。
「あ、はい」
慌ててシートベルトを嵌め込んだ。
「ちょっとだけドライブ。取り敢えず真希の部屋まで」
「え?」
「早かったな。…どこか寄る予定でもあった?」
「え、ううん…そんなのは無いです」
「そっか、良かった」
手を握られた。…あっ…。
「これ」
「…え?」
引き込まれた時からずっとドキドキしてるのに。
「俺の小指に辛うじて嵌まってる可愛い指輪があるだろ?」
確かに。クイクイと小指だけを動かしている。
シンプルで、でも繊細なクラシックなデザインで凄く可愛い。ピンクゴールドは肌に馴染むカラーだ。素敵な指輪だけど…。
「は、い」
「これどう思う?真希の正直な感想を聞かせて?」
「え?はい。私は凄く好きです。一番好きなタイプのデザインです、色も」
本当だ。一目惚れで買ってしまいそうだ。
「そっか。悪い、ちょっと外してくれないか」
「え?はい…」
丁度信号が赤になった。車は停まった。
「お、ラッキー」
?、言われた通り小指の途中に留まっていた指輪を抜いて渡した。
「左手貸して?」
「え?」
「早く!」