勘違いも捨てたもんじゃない
宣言通りだった。
仕事から帰って開けた宅配ボックスの中には、小さい箱が入っていた。送り主はお店の名前になっていた。これも安住さん宛てに直接送り返されない為という事なのかしら。
取り敢えずテーブルに置いて、先に着替えを済ませた。
箱を尻目に夕飯の準備をした。時間が経てば、勝手に爆発して消えてくれたらいいのにと思った。そうはならない。
カチカチと爆弾を連想させる音はしていない。
当たり前だ。望み通りの事は起こりはしない。
はぁ、開けなくてもいい。そのまま捨てたっていい。
…開けなくても解る事は、化粧品の類いではないかという事。
ご飯も済んだ。お風呂も済ませた。
箱は変わらずテーブルの上にある。
次、会う事があるとするなら、返そうか。送り主が本人で無いという事、送り返す事もできない。そりゃあ?お店になら返せるけどね?
カチカチカチカチ。
カッターの刃を押し出し、封をしている透明のテープを送り状ごと切った。
開けてみた。
薄ピンク色の細切りのクッション材がびっしり。カシャカシャと掻き分けた。中から現れた物はラッピングされた箱。と、カードが入っているであろう封筒。それを取り出しソファーに移動した。
カードを取り出し、見た。
『好きな物も好きなブランドも解らない。勝手に使って減らしてしまったお詫びだ。きっと君に似合う色だと思う』
名前さえ無い。メールを貰っていなければ、ただの不審な贈り物。
リボンを解いた。だけど、これを見て、カードを読めば贈り主は解る。
…口紅。名前は知っていても使った事も無いブランド物。
キャップを開け、回してみる。…、あ。クルクルと押し上げられて来たその色は、私の好きな色。派手な濃い色では無く、肌に馴染む色。少しピンクがかった落ち着いた色。…君に似合う色、ね。…。本当、上手…。
一緒に小さい瓶。…香水。キャップを外してみた。
…あ。…これ。途端に拡がったふわっとした香りはよく知っている香り。これは…安住さんの香り…。
…なんてこと。
瓶の首に二つ折りの小さいカードが下がっていた。広げてみた。
『これは、今、キャンペーンで付いてるらしいよ』
…もう、…嘘だ。…本当なの?どっち?
本当に、もう…嘘でも本当でも、この言葉が策士だ。
…はぁ。この香水…。この香りに気持ちが掻き乱されているのは確かだ。印象付いてしまった香りは、もうその人そのモノを連想させるものだ。