勘違いも捨てたもんじゃない
「真希、またこんな格好で、…風邪をひくだろ?」
また抱きしめられていた。固まりそうだ。いや…もう固まって動けない。
「では、私はこれで…」
「ああ、お気遣い有難うございました」
…、何だ、これ…当たり前みたいに。
部屋の中に入っていた。
珈琲を出した。これ…人として当たり前のことですから…。
「…どう、ぞ…今夜はどんな方法で?」
ムッとするというか、呆れていたの方が近いかもだ。
「部屋番号を押す振りをして立っていた。誰か来るかな〜って」
はぁ…完全に怪しい人じゃないですか。
「そしたら、またさっきの女性だ。押してるけど出てくれないと言ったら、表示画面を確かめる事もなく連れて来てくれた。あ、頂くよ」
「…どうぞ」
それは、“面倒見のいい”女性と知り合いになれて良かったですね…。
「ところで、今夜は上に羽織らないでいいのかな?」
あ、…もう、忘れていた。
「すみません。少し失礼します」
「別に、気になるならこれでいいだろ」
立ち上がりジャケットを掛けられた。
…はぁ、こういうとこです、安住さん。あなたはずるい紳士なんですから。私とて頑なに遠慮してもいいのだけど。
「惑わさないで頂けますか?」
「ん?何をだろう」
…はぁ。こういうことを惑わされてると感じてることがもう惑わされてるんだって…。教えてもいけないのに。
「私をです」
「はて、惑わせたつもりはないが」
「充分、惑わせて頂いております」
「それは誤解だ。そう思うのは君の気持ちの問題だ。君が勝手に惑っているだけだ」
…、はぁ、…やられた。確かにそう、これでは安住さんの言うように、私が意識をしていると言ってしまったも同然になってしまう。
「私がどんな事を言おうが、しようが、君次第、だろ?君がしっかりしてさえ居ればいいだけの事だ。気がないのなら何でもないことだ。ただのじゃれあい」
もう、ぐうの音も出ない。珈琲を飲んだ。
「君はよく反応してくれる。…素直にね」
…しっかりして無いって事になります…素直って、簡単ってこと。
「私は駆け引きをしているつもりは無い。気持ちに正直な態度でただ接しているつもりだ。よく思い出してみてくれるかな。…どうかな?」
何もかも、…あまりにもスマートにしてしまうから、慣れている、遊び上手なのではと勝手に思ってしまったのは確か。だけど…。会いたいから来ていると言われたら…この人だって気持ちに正直なだけなんだ。
「こんな歳まで独身だから、かな?遊び慣れていると思う訳だ」
あ、…そう、華麗なる独身貴族よ。全く遊んで無いとは思いませんよ。…言わせませんから。