勘違いも捨てたもんじゃない

トップの人だから身についたものなのか、生まれながらに細やかな人なのか…。

「私は…この前、堪えられなくて帰った」

「え?」

「始めこそ、疲れていたから直ぐに眠ってしまった。君の腕の中は温かくて良く眠れた」

「…そうですか、それは…良かったです」

「良くない…」

「は?」

「理性は利くと思っていた。私は二時間も寝れば目が覚める。だからタイミングが悪い朝は機嫌が悪い。眠れないのを寝ているからだ」

「生粋のショートスリーパーなのですか?」

「面白い言い方をするな…」

膝の上に肘をつき、顎の下にあった手を解いて頭を撫でられた。その撫で方に穏やかな眼差しが向けられているのを感じた。

「ああ。長く眠った事は無いな。こうして君は今私がしているように、私の頭を撫でてくれた。ギュッと抱きしめてくれた。勝手だが、そんなに頑張らなくていいよと言ってくれている気がした。
何だか自然と、君の為に頑張ろうと思った。
子供みたいだろ?
もし、こうして君が毎日抱きしめてくれたら、私の生き方は変わるかも知れないと思った。大袈裟な話では無い。男とはそんなものだ。
好きな女に褒めて貰い、たまに慰めて貰えるならこんな幸せな事は無い。何にも代えがたい原動力になるんだ」

そんなに力になるものなの?

「そんな君の肌に触れてしまった。そして…あれこれと葛藤した挙げ句があれだ。君につけたキスマークだ。私は矛盾してしまった。いや、はっきり言えば嫉妬、かな。
まだまだ本気で大事に進めていきたいと思っていたから、本当に食事だけで良かったんだ、まだ」

…まだまだ?、…まだ?

「なのに…君は私を惹き付けて止まない。もっともっと居たいと思わせる。…楽しいんだよ、君と居ると。自然体だからだろう。良く見せようとか、色仕掛けで迫ろうとはしない。話しているだけで楽しいんだ…」

「色仕掛け…」

あ、いけない。

「居るよ?敬遠したくなるほど強力にアピールする女性。何をどうしたいのやら…というか、まあ、一夜の相手だな。こう言ってはなんだが、うんざりする」

「それはきっと、安住さんと何とか関係を持ちたいのだと思いますよ?」

「それで?」

「え、それで?ですか?…う〜ん、それだけでいいと思ってしまうんじゃないですか?」

「何故」

「何故?ゔ〜ん、お付き合いは無理だと思ってしまうからではないですか?だからせめて一度だけでもって…」

「何故、どうして」

…もう、答え辛い。住む世界が違う人だからとはそれも言われたくないだろう。

「知りませんよ、もう…。私に聞かないでください。関係を持った当事者に聞いてください」

…、あ、…なんて事を。きっと断らない、迫られたらしてるだろうと思ってつい言ってしまった。

「何だか、ごめんなさい…」

「君は私をどう思う?」

「ぇえっ?」

もう、どう思うって…なんて返したら…エネルギー使うなぁ…。
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