勘違いも捨てたもんじゃない

今の電話は多分、嘘。かけた振りをした、きっとそう。…。


安住さん…はぁ、安住さん。…安住さん。
部屋を飛び出し、階段を駆け降りた。

安住さん…どこ。…駐車場?
車…黒い車を探したら…いいんだ。

「…安住さん…はぁ、…どこ…」

キョロキョロしながら走り回った。
突然明るいライトに照らされた。車の前に飛び出していた。
あっ、当たっちゃう…。その場にしゃがんでしまった。

ブレーキ音が響いた。車が停まると同時にドアを開ける音がした。

「何をしている!…はぁ、…大丈夫か…、危ないだろ…。はぁぁ、怪我は無いか?どこも痛くないか?」

安住さんが急ハンドルで私をかわした。
跳ねられたと思った。…死ぬほど驚いた…幸い腰は抜けていなかった。慌てて降りて来た安住さんに抱えるようにして立ち上がらされ、折れそうな程抱きしめらていた。どこも痛く無い。イチミリも当たっていない。…今の状態の方が痛いくらいだ。

「はぁ…、私を人殺しにさせたいのか…何て事をするんだ君は…、何を考えている飛び出したりして…はぁ」

…飛び出したつもりは無かった。車の前に出たのだから飛び出した事になるのか…。

「……危ないから……眠気を覚まさせてあげようかと…思いました」

…違う。本当は危ないから直ぐ帰っては駄目だと、言いに…来た。

「…フ。…はぁ。そんな減らず口を…。皮肉かな、それは結果論だろ?無事だったから言える事だ。…どっちが危ないと思ってる。ん?面白い女だな。いや、…狡い女だ。こうして、また私を引き止めた…」

…引き止めたいと思った訳じゃない。そこまでは頭は回ってなかった。

「また…、こんな格好のままで…。何事かとボチボチ人が顔を出す頃だぞ…」

格好なんて…そうか、またヒラヒラした薄着だった。誰が出て来てもどうしようも無い。だって慌てて出て来たから…。

「このまま私の部屋に来るか?…なんてな、…はぁ…」

…。

「ちょっと待っててくれ」

ジャケットを私に羽織らせると、車をバックさせ、枠に停めた。この場所があの女性が契約している枠なんだ。

「部屋まで送ろう。大丈夫だ。送り狼にはならない。今は眠気も飛んでる、帰りも心配無いから」



「…さあ、入って。じゃあ、おやすみ」

玄関で着せてくれていたジャケットを取り去り、腕に掛けた。

「外は寒いのに、こんな格好のままで…。もうこんな危ない事はしないでくれよ?」

…この、紳士的な部分…。腕を掴んでいた。私達は、…私は、この人に接触し過ぎて居るんだ。

「…嘘、ですよね。お芝居しましたよね、電話。…どうして…どうしてですか?」

「ん?」

「こんなに離れがたいのは…どうして?」

…。

「私…武蔵さんの事、好きなのに…凄く好きで堪らないのに、どうして…」

…ふぅ。

「…私は武蔵でもないし、君でもない。君が考える事は君じゃないと解らないし、武蔵を好きだと言うその思いの強さも、私には解らない事だ。…だから、武蔵と話しなさいと言ったつもりだったが?折角覚めた眠気が戻って来る。とにかく帰るから」

掴んだ腕から両手を離された。
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