勘違いも捨てたもんじゃない


「…武蔵、どこだ、居るんだろ?」

建物の陰に居た。

「…はい」

「…いつから来てる。何で来た」

「タクシーで。…多分、若がここに来てすぐくらいの時から居ます」

…よくここに居ることが解ったなとは言わないんだな。

「では、車、運転してくれるか」

「はい、…畏まりました」

今夜は互いにドアを開け乗り込む。俺は運転席。若は後部席だ。
車を出した。ゆっくり進み公道に出た。

「…ふぅ。ずっとここで…見張ってるつもりだったのか?」

「勿論です。携帯を置いて行かれては、若の素行、…監督不行き届きになりますから」

「社長としての心配か?それとも…俺個人の心配か?心配の意味は…」

「社長としての身の心配です」

「そうか…。悪い…少し…寝る。…もう限界だ…。着いたら起こして、く…れ…」

…眠ったのか。もう、本当に睡魔の限界じゃないか…。これでよく起きて居られたもんだな。
ここに俺が来ていること…俺に会わなければ、このまま車の中で寝て帰って来るつもりだったのかも知れない。じゃなきゃ無理だろ…。
大の大人が…肝心な時に睡魔に負けてるなんて…。庇ってる場合じゃないけど。
幸か不幸か、だな。
ふぅ、あまり長い時間、居たようでは無かったようだ。どこか寄り道でもしてから来たのだろうか。
…真希が慌てて追い掛けて来て、浩雅の車を探している内に前に飛び出した時は、俺も飛び出しそうになった。間に合わない…跳ねられた、心臓が潰れるかと思った。はぁ…本当に無事で良かった…浩雅の反射神経に救われた。
二人で部屋に戻って行って、あいつが出て来なければ、もう、終わったと思った。
真希は自分でも知らないところで揺れている。…いや、揺れているのは自覚があるんだ…。浩雅の言動に、気がついた時には揺さぶられていたに違いない。…真希、どうするかな。……浩雅と奪い合うような事をしても、気持ちは冷めるだけだ。どちらともつき合わない、なんて言いかねない…。これは真希が決める事だ。真希が自分の心で…。
静観とまではいかないが、俺は俺のまま。普通に連れ出す。激しく求めるなら求め合う。
それだけだ、…今は。
…しかし、よくもまあ、出会ってしまったもんだな。何も、こんな巡り会わせでなくても良さそうなもんなのに。

RRRR、RRRR…。
…あぁ、もう寝てしまったか…。

「真希、社長は俺が連れて帰っている。心配無いから。…おやすみ」

…ふぅ。聞くのは朝かな…。
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