勘違いも捨てたもんじゃない
「それは…断る理由として居ないのに居ると言っている訳では無いよな?」
「本当です、本当なんです」
曖昧にはできない。本当のことだから。
「…解った。仕事に戻ろうか」
え゙。あっさりしている。こんなものなのですか?…逆に恐くなるんですけど。いや、断って試したとかでは勿論ないんだけど。
「ん?ああ、あっさりしてるって?…諦めない、と言える程、俺は若く無い。結婚は無理なんだ。そうはっきり言われたんだ。好きな人が居るなら仕方がないと思わなければいけない…残念だがな」
あ、……。
「何も気にするな。今まで通りだから。あ、こういうことで仕事上で嫌がらせをするとか勿論しない。そんなこと、それこそハラスメントだ。俺はそんなちっちゃい男じゃないぞ?…ふぅ…嫌いになる訳じゃ無い。思い方を変える…努力をするだけだ。さあ、戻ろうか」
「…はい」
大人だ…。できるできないは別として、こんな風に言える課長は素敵だ。本来、上司になる人は課長みたいな人格者がなるべきなんだ。
「課長は素敵な人ですね」
…あ、え?
溜め息をつかれた。
「…高鞍。今後の為に言っておく。そういうのは言わない事だ…。今、それを言ってどうする、どうなる?…どうもなりはしないだろ?タイミングの問題だけど、薄っぺらい人間だと思われるよ。…言ってどうする?…何も変わりはしないのに。それは今は褒め言葉にはならないぞ?有り難いが、今は言っては駄目だ。却って相手を傷つけるだけだ」
…あ。
「…すみません」
「いや、…気持ちは解ったから」
…。
「良かったよ。これですっぱり終わりだ。痴漢も気をつけろよ?と言っても防げるものではないだろうが」
眼鏡を上げると課長は先に戻って行った。
あ…駄目な自分が見えた気がした。
私は、…自分の言葉でこんなに人を傷つけてしまったんだ。ただ断るよりも深く傷つけてしまった。断っておいて素敵な人だって、言って…。そして、そんな浅い私を好きになってしまった事を後悔させてしまった、…きっと。
…なんて不出来な人間なんだろう。深みも配慮も無い、…薄っぺらい、表面だけの人間。いい歳をして…。どこか浮わついていたんだ…。
「課長ー!すみませんでした」
急いで後ろ姿に頭を下げて謝った。
課長は振り向かなかった。そのまま、歩きながら手を少しあげた。…あ、…本当にごめんなさい。必要以上に傷つけてしまった。