猫かぶりな伯爵の灰かぶりな花嫁
グレースは、なんとなく感じたくすぐったい気恥ずかさをごまかすように話題を転じる。
「そういえば、お義父様はどちら?到着のご挨拶をしたいのだけれど」
案内されたグレースの部屋からは、南側の庭園がよく見渡せる。さっそく荷ほどきを開始しているマリをよそに、開け放った窓辺に立つ。
草の青さと花の甘さが混じった香りが、乾いた微風に乗って流れ込む。自分が通ってきた、王都へと続く道も見えた。
「大旦那様は、先ほどほかの者がお迎えに行っているはずなので、間もなく戻られると思いますが」
「どちらかへお出かけだったの?」
表舞台から引退したとはいえ、実質的な領地の管理などで忙しい日々を過ごしているのだろう、とグレースは推測した。
「種まきの季節になりましたので、朝から畑に出られておいでなのです」
「それは領民の様子を見に、ということ?」
それならわかる。しかし返ってきた答えにグレースは少々戸惑った。
「いいえ。この屋敷の畑です」
旅装を解いて向かった応接室は、この家の歴史を感じさせる落ち着いた趣きだった。
どっしりと存在感のある椅子に、異国情緒豊かな置物。中には、なにを表しているのかもわからない焼き物もある。明るい室内を物珍しげに眺めていたらカーラが香茶を運んできたので、慌てて居住まいを正す。
薄く色づいた香茶から爽やかな香りが湯気とともに立ち上った。
「カモミール……」
ほんの少しだけ蜂蜜を入れた香茶の甘みが、旅の疲れを癒やしてくれる。
「今朝、庭の香草園で採ったものなのですよ」
カーラが小ぶりのガラスの器に、黄色い中心を白い花びらが取り囲む小さな花を挿したものを、机の上に置いた。素朴な花からもリンゴによく似た香りが漂う。緊張を解く効果があるはずのそれは、グレースの表情を曇らせた。
「この辺りは、もう咲いているのね」
王都の屋敷の庭では、ラルドが好きだというこの花の香りをまだ嗅いでいない。彼はここにいないのに、彼の匂いだけが先に到着したようだった。
「そういえば、お義父様はどちら?到着のご挨拶をしたいのだけれど」
案内されたグレースの部屋からは、南側の庭園がよく見渡せる。さっそく荷ほどきを開始しているマリをよそに、開け放った窓辺に立つ。
草の青さと花の甘さが混じった香りが、乾いた微風に乗って流れ込む。自分が通ってきた、王都へと続く道も見えた。
「大旦那様は、先ほどほかの者がお迎えに行っているはずなので、間もなく戻られると思いますが」
「どちらかへお出かけだったの?」
表舞台から引退したとはいえ、実質的な領地の管理などで忙しい日々を過ごしているのだろう、とグレースは推測した。
「種まきの季節になりましたので、朝から畑に出られておいでなのです」
「それは領民の様子を見に、ということ?」
それならわかる。しかし返ってきた答えにグレースは少々戸惑った。
「いいえ。この屋敷の畑です」
旅装を解いて向かった応接室は、この家の歴史を感じさせる落ち着いた趣きだった。
どっしりと存在感のある椅子に、異国情緒豊かな置物。中には、なにを表しているのかもわからない焼き物もある。明るい室内を物珍しげに眺めていたらカーラが香茶を運んできたので、慌てて居住まいを正す。
薄く色づいた香茶から爽やかな香りが湯気とともに立ち上った。
「カモミール……」
ほんの少しだけ蜂蜜を入れた香茶の甘みが、旅の疲れを癒やしてくれる。
「今朝、庭の香草園で採ったものなのですよ」
カーラが小ぶりのガラスの器に、黄色い中心を白い花びらが取り囲む小さな花を挿したものを、机の上に置いた。素朴な花からもリンゴによく似た香りが漂う。緊張を解く効果があるはずのそれは、グレースの表情を曇らせた。
「この辺りは、もう咲いているのね」
王都の屋敷の庭では、ラルドが好きだというこの花の香りをまだ嗅いでいない。彼はここにいないのに、彼の匂いだけが先に到着したようだった。