猫かぶりな伯爵の灰かぶりな花嫁
小屋脇の井戸で汚れを落とし、オルトンはついでにブチブチとむしった草も洗う。中で火を熾し湯を沸かしていたヘンリーは、夕方にまた迎えに来ると言い残して屋敷に戻っていった。
オルトンはポットに摘んだ葉っぱを放り込んで湯を注ぐ。それを蒸らしている時間を利用し、マリがささくれが目立つ木製の机の上に並べた燻製や酢漬けを挟んだパンの隙間に、まだ水気の残る草も入れる。

「お義父様、それは?」

グレースにとってはその辺に生えているただの草にしか見えないものたちから、青臭さだけではない香りがしてきていた。

「すべて香草ですよ。畑で作っているものの種が飛んだのでしょう。春の柔らかい葉はそのまま食べると旨いんです」

そう言われてよくよく葉の形を観察すると、見覚えのあるものもある。グレースが目にしたほとんどは皿の上だったが。

「よくご存じですね」

「毎日のように見ていれば、嫌でも覚えてしまいます」

ほんのりと薄い黄緑色がついた茶をマリが器に注ぐ。採れたての香草で入れた香茶からは、また格別な香りがたった。パンに挟んだ香草も肉の臭みを上手く消し、シャキシャキとした食感と鼻に抜ける香りが爽やかだ。

「母がよく館の周りで採っていたのは、これらだったのかもしれません」

覚えのある味と香りが、グレースの心に懐かしさを呼び起こす。これほど美味しい草を探していたのだったら、むきになって止めさせなくてもよかったなどと、虫のいい考えまで浮かぶ始末。

気づけばかなりの量があった籐かごの中身は、すっかりなくなってしまっていた。

「午後はわたしもお手伝いさせてください」

グレースの申し出にオルトンが驚いた。

「草むしりなどの土仕事ですよ。服も手も汚れてしまう」

「そんなものは洗えばいいだけ。子どものころは母によくやらされていたので得意です」

王女らしくない自慢をすれば、オルトンも「キャロル様らしい」と苦笑いで了承するしかない。

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