好きにならなければ良かったのに
病院で診察を受けた後、美幸は自宅まで送って貰う。
青葉は美幸を送ると「お大事になさってください」と、一言言うと車を走らせた。青葉を見送る美幸は暫く玄関前に突っ立たまま動かなかった。暫く、呆然と車が去って行った門の方を見ていた。
既に外は真っ暗で庭に点在する街灯が門までの通路や駐車スペースを照らしている。まだ夜は少し空気がひんやりしている。薄着で外へ出ていれば少し肌寒く感じるだろうが、今の美幸にはそんな気温など感じない程に呆然としている。
「奥様?」
車の出入りがあったのに玄関のドアが開かないことに、執事の遠藤が外へやって来る。美幸は玄関ドアの開く音さえも気づかずに呆けた顔をしていた。
「奥様?」
美幸の様子が変だと気付いた遠藤は直ぐに他の使用人を呼ぶ。そして、美幸を直ぐに寝室へ連れて行くように指示を出すと、遠藤は執務室へと行きそこから幸司の携帯電話へ連絡を入れる。
「美幸が?」
「はい、奥様の様子がおかしいのです」
遠藤からの電話を受けた幸司は、仕事を終えていつも通りに会社近くのビジネスホテルへ来ていた。この日もここへ泊るつもりでやって来たのだが、遠藤から貰った電話に幸司は慌ててホテルをチェックアウトし自宅へと急ぐ。
「美幸に何があった?!」
居ても立っても居られない幸司は車を飛ばし自宅へと向かう。
まさか、遠藤から知らせを受けて幸司が自宅へ戻って来ているとは知らず、美幸は使用人に寝室へ連れられて着替えを済ませていた。そして、ベッドへと横になりそのまま眠ってしまう。
「奥様はどうされた?」
電話を終えた遠藤が美幸の状態を心配し、寝室へ連れて行った使用人から様子を聞く。
「随分疲れた感じでした。食事もお風呂も要らないと言われて休まれましたが……」
「そうか。かなり顔色がお悪い様だったが」
「あの、少し気になることがありますが」
その使用人は日頃美幸の身の周りの世話をしている女性だ。その使用人はこのところの美幸の体調について気付いている事があると遠藤に話す。それは、美幸にあるはずの生理が来ていないようだと。
「その事は誰にも言わないように。もし勘違いならば旦那様がどんなに落胆なされるか」
「はい、分かりました」
使用人の間にも自分の体調の変化を知られているとは思わなかった美幸は、ベッドの中でスヤスヤと眠っていた。