好きにならなければ良かったのに
横たわる幸司の傍についていたい美幸は、使用人には屋敷へ戻るようにと指示を出す。しかし、元々体調の良くない美幸をサポートする為に一緒に病院へとやって来たのだ。そう簡単に一人で屋敷へは戻れないと、美幸のそばについてくれていた。
静な眠りについている様にしか見えない幸司だが、其の実痛みで苦しんでいることだろうと、美幸は幸司の傍から離れられない。
パイプ椅子に座った美幸は、眠る幸司に寄り添うようにベッドに前のめりになる。両手でしっかり幸司の左手を握りしめると、その手に祈るようにキスをする。
――トントン……
美幸が病室へ入ってそれほど時間は経っていない頃に、病室のドアを誰かが叩く。美幸はハッとして顔を上げると、まさか晴海がやって来たのかとビクッとし、背中に汗が流れ落ちるのを感じる。
「あ、私が出ます」
使用人が美幸の代わりにドアを開けようと立ち上がると、ドアが開き医師と看護師が入ってくる。
「ご家族の方ですか?」
「はい。私はこの人の妻ですが」
看護師が点滴の様子を見に行く横で、医師は美幸の顔を見ると淡々と話を続ける。
「ご主人は交通事故による全身打撲ですが、今のところ骨折は見当たりませんし臓器の方にも問題はありません」
医師の説明をハラハラしながら聞いていた美幸だが、骨折もなく内蔵にも損傷なく幸司は無事なのだと、やっと医師の説明で心が休まったかんじがした。
だが、続けて説明する医師の「ですが」と言う言葉に美幸の顔がひきつる。
「何かあるのですか?」
「頭部を強く打っている様でして、一応検査はしましたが今のところ内出血もありませんし脳の腫れもありません」
「それで?」
検査の結果は問題ないと言うが、どう見ても問題ないとは思えないその言葉に美幸は両手を握りしめる。
「昨夜こちらへ運ばれてからまだ一度も目を覚まされていません」
「それはどういう意味ですか? まさか、二度と目を覚まさないってことありませんよね?!」
美幸は目の前が真っ白になると、脚がガクガグ震え始める。幸司に万が一のことがあればと、そんな恐ろしい事を考えてしまった。
「大丈夫ですよ、その内目を覚ますでしょうから、そばについていてあげて下さい」
医師のその言葉に美幸はやっと笑みを浮かべることができそうだった。