好きにならなければ良かったのに
幸司からの言葉が、例え事故に遭い気が動転してそんなセリフを吐いたとしても美幸は幸司を責めるなんてそんな気は起きなかった。それどころか、弱っている時にそんなセリフを言われることで幸せを噛みしめられる自分が情けなくて。
「痛みはある? 苦しい所はない?」
「いや、……ああ、ないが」
美幸の前だからと無理したように笑顔を取り繕う幸司に、美幸は椅子に座ると幸司の手を握り締め「私はずっとここにいるわ」と、幸司を安心させる。その一言で幸司の顔が穏やかな顔へと変わると瞼がゆっくり閉じて行く。
「幸司さん?」
「美幸の手の温もりは心地いいな。こんな風に思ったのは初めてだ」
手に汗を滲ませる美幸は幸司の手を引き寄せて、手の甲に口付ける。
「ずっとこうしているね?」
「……」
「なに?」
「キスは手だけ? 唇にはしてくれないの?」
いきなりそんなセリフを言われても、本人を目の前にしていきなりキスなんて恥ずかしくて出来ないと、思わず顔をそむけてしまう。しかし、その顔は真っ赤になり耳朶まで赤く染まると、それを見ていた幸司はぷっと吹き出す。
「いてっ……っう」
「大丈夫?!」
「美幸がキスしてくれたら痛みも減りそうだ」
「え?」
茹蛸の様に赤く染まる美幸を見てクスクス笑う幸司は、とても意地悪な顔をしている。こんな時なのにその悪戯っ子の様な顔がとても嬉しくて美幸は顔を寄せていく。幸司の唇と重なりそうになるとそこで動きが止まってしまう。
そして、幸司の瞳に目が奪われていると、グイッと力強い腕に引き寄せられ頭を寄せられると幸司の唇と重なる。
「んっ……」
怪我をして痛い筈の腕なのに、頭を掴む様に抱き寄せられるその手がとても力強くて胸が張り裂けそうになる。もっとその腕に抱きしめられたいとそう思ってしまうと、幸司とのキスも少しずつ淫らになる。
「ん、あ、幸司さ……ん」
「美幸、愛してる」
書庫で聞いた言葉と同じ愛の告白。
あの時、晴海に告白していた筈なのにと、美幸は何故そんな言葉を自分にも言うのか。本当に晴海を愛しているのなら何故他の女にまでそんなセリフが言えるのか。
美幸は悲しみに襲われてしまう。
けれど、きっと、それは幸司が会社の後継者となる為に必要なことなのだと美幸にはそう感じてしまった。
「幸司さん、安心して。きっとあなたをお義父様に認めさせてあげるから」
「?」
微笑む美幸に幸司は、いったい美幸が何を言いたいのか意味が分からず困惑した顔をする。