好きにならなければ良かったのに
「私ね妊娠したのよ」
「え?」
「今、妊娠4か月ですって」
目を見開いて驚いた幸司は全く動きが取れなくなる。本当なら美幸を抱き上げてキスをしてやりたいほどに嬉しい。けれど、痛みが思ったより酷くてキスをするのが精一杯だ。
しかし、それでも体いっぱいにその嬉しさを表現したい幸司は、両手を広げ笑顔で美幸を見つめる。
「おいで、美幸」
「でも」
腕を震わせながらも大きく広げ差し出されると、美幸はその腕に抱きしめられたくて幸司の胸に抱きつく。
「幸司さん」
「ありがとう、美幸」
痛みのある腕で必死に抱きしめてくれる幸司に、美幸はこんなに幸せは無いって思えた。けれど、どうしても晴海の影がちらつく美幸は素直に心から喜べない。
「美幸、いままでごめんな。ずっと辛い思いさせて。俺の所為で、俺が日下とすっぱり別れられなくてお前には随分嫌な思いをさせてしまった」
ギュっと抱きしめるその腕は痛みで震えているのが美幸にも伝わる。そんな腕で力を入れれば治るものも治らないと美幸は幸司から離れようと体を起こす。しかし、幸司はそれを許さなかった。美幸の頭を抱きしめ自分の胸に縛りつける。
「俺、日下とは別れたから」
「え?」
「俺が一生を共にするのは美幸だけだと思っているから」
幸司の腕の力が緩むと、美幸は顔を上げて幸司の瞳を見つめる。少し潤ませた瞳はとても恥ずかしそうにして、頬も少し赤らめている。こんな幸司の顔をこれまで見たことがあるだろうかと美幸は顔を覗きこむ様に見てしまう。
すると、幸司は目の前にドアップで近づく美幸の顔に真っ赤に染まると目を逸らす。
「じゃあ、さっきの言葉は本気なの?」
「さっきのって?」
「愛してるって」
幸司は更に顔を赤らめて目を泳がせる。まるで嘘を吐いている様な瞳をしながらも、とても恥ずかしそうにしているその表情から、その言葉は嘘には感じられない。
「入社してきた美幸があまりにも俺の知っている美幸と違っていたんだ。きっとそんな美幸に俺は恋をしたんだと思う」
「……」
そんな恥ずかしいセリフを面と向かって言われた美幸の方が、顔を茹蛸の様に赤く染めてしまうと、顔がガチガチに固まってしまう。
「美幸の新たな一面が見れて俺は嬉しいよ」
「やだっ」
「俺は美幸に惚れたんだ。そして、これまでの美幸の優しさを感じるようになった。俺、ずっと甘えていたんだ。結婚してから美幸に甘えすぎてたんだと」
「やっと分かったよ」と優しい言葉に包まれながら美幸の唇に甘くて蕩けるようなキスをされる。とても心温まるキスに美幸の頬には涙が流れ続ける。