好きにならなければ良かったのに
その後、これまで我慢した分だからとかなり幸司につき合わされた美幸は、流石に普通の体ではないだけに疲れてしまってダウンする。ベッドにうつ伏せになっていると、幸司から肩を掴まれて仰向けにされる。
「お腹は大丈夫?」
「うん、大丈夫よ。この子は結構タフみたいだから」
美幸のお腹の膨らみに手を添えた幸司は優しくお腹を撫でると顔を近づけ頬を寄せる。
「男かな? それとも女なのかな?」
「そうね、男の子の方がいいのかしら? 待ちに待った後継者でしょ?」
「美幸にそっくりな女の子がいいな」
愛おしそうにお腹を擦る幸司に美幸はとても幸せを感じていた。あれ程後継者となる子どもが欲しいと文句ばかり言っていた幸司が、今ではどちらでも構わないと言ってくれる。それだけで美幸は幸せに浸れることが出来る。
そんな幸せの真っ只中にいる時に、美幸は例の衣装ケースを思いだした。
自分でも折角幸せな時間の中にいる今、そんな嫌な事を思いださなくてもと、自分の心の狭さに腹立たしくなってムッとしてしまう。
「どうした? 眉間にシワが寄ってるぞ」
それも幸司が原因だと思わず言いかけた美幸だが、喉元過ぎた所で言葉をグッと堪えた。
すると、美幸が何かを我慢している様に感じた幸司が美幸の隣へ寝そべる。美幸の頬にかかる髪を手櫛で払い除け美幸の顔を静かに見つめる。
言いたいことがあれば隠さずに言えと言われている様で、気まずい気持ちはあるが、それが原因で今だに心の中がモヤモヤする美幸は思いきって訊いてみようと思った。
どんな返事が返って来るのか正直不安はある。しかし、このままではダメな気がして、気持ちを引き締め幸司の目を見つめ乍ら勇気を振り絞って訊く。
「あの、車のトランクに入れている衣装ケースだけど」
「み、見たのか?!」
衣装ケースと言葉に出ただけでかなり狼狽える幸司に、美幸はやはり訊いてはいけない事だったのだろうかと思えた。これ以上は訊かない方がいいのだろうかと悩んでいると、幸司は体を起こしベッドに座ると真剣な顔をして言う。
「あれは、ごめんな」
いきなり謝罪から始まった弁解に美幸はやはり訊いてはダメだったのだと瞼を閉じて唇を噛みしめる。
「母さんの誕生日の日に、母さんに美幸を大事にしているかと訊かれて、俺なりに大事にしているつもりでも何も行動に起こさなかったと反省して、アレを買ったんだ」
「じゃあ、あれは私へのプレゼントだったの?」
てっきり晴海へのプレゼントを何らかの理由があって美幸の手元へやって来たのだと思いこんでいた。