好きにならなければ良かったのに
暫く美幸の寝顔を見ながら考え込んでいた幸司だが、サイドボードからウイスキーボトルを取り出すと、小さなグラスへそのウイスキーを少しだけ注ぐ。
サイドボードにもたれ掛かりベッドへ横たわる美幸を見ながら、喫茶店で会話した青葉のセリフを思いだしていた。
『奥様を大石部長の看病へ実家へお戻しになりますか?』
『いや、それはダメだ』
『何故です? 部長はきっとお嬢様でいらっしゃる奥様にも何もお話になられていない筈です』
『その部長から相談を受けているのだろう? その話が終わるまでは美幸には何も言うつもりはない。だから、お前もそのつもりでいてくれ』
青葉は美幸を実家へ戻すように勧めたが、幸司はとてもそんな気分にはなれなかった。もし、ここで万が一、美幸が実家から戻らなかったらと、そんな考えが頭を過ぎると背筋が凍りそうなとてつもなく不安な気分に陥ってしまう。
ウイスキーを一気に飲み干すと手の甲で濡れた唇を拭い、グラスはサイドボードの上へと置く。シャツのボタンを外そうとすると手が少し震えてボタンが外せない。苛ついた幸司はスーツの上着を脱ぎ捨てるとシャツを一気に左右に引き裂きそれも床へと脱ぎ捨てる。
ジッパーを下ろしスラックスも靴下も脱いだまま放置すると浴室へと向かう。寝室繋がりの浴室へと入る幸司は下着姿のままシャワーを浴びようとしていることに気付く。
「一口飲んだだけのウイスキーに俺が酔うなんて……。余程、美幸の父親の病気が痛かったか……それとも……」
下着のままシャワーの蛇口を捻り頭から冷たい水を被る。躰の底から冷えるその水を暫く流し続けていた。
---チュンチュン…………と、小鳥の鳴き声で目を覚ました美幸。
昨夜はソファーに横たわってそのまま眠りについたような気がしたと思っていたが、目を覚ました時にはベッドの上に横たわっていた。カーテンは開いたままで、朝日が燦々とベッドまで降り注いでいる。その眩しさに目を覚ました美幸だが、壁にかかる時計の針を見るとまだ目覚めるには少し早い時間だ。
「あ、服が……」
体を起こそうとすると自分が何も身に着けていない事に気付く。お尻周りには布地で引き締められている感覚を感じるから、きっとショーツは穿いたままだと分かる。しかし、胸元は何も隠すものはなく肌寒く感じる。
それに体を起こそうにも自分の体がやけに重々しく感じる。