好きにならなければ良かったのに
翌朝、幸司は早い時間に目が覚めた。やはり、昨夜の事が色々と思い出され悠長に寝ていられないと無意識のうちにそう思ったようだ。
昨夜は美幸を抱いて眠っていた筈が、その美幸は腕にはいなくベッドにもその姿はない。もう起きたのかと体を起こすと窓の外を眺めている美幸がいた。
「美幸」
声をかけると、美幸は幸司に背を向け顔に手をやっている。昨夜は目尻に涙の跡が残っていた。もしや、今も泣いていたのかと、ベッドから急いで下りては美幸の手を掴み顔を覗き見る。
「離して」
沈んだ声の美幸をギュッと抱き締めて頭を撫でる。幸司はこんな状況で父親の話をしても良いものだろうかと悩む。
「昨夜は悪かった。急に青葉に呼び出されたんだ」
美幸はその言葉は何処まで信じられるのか分からなく、ただ首を横に振るだけだった。
「本当に昨夜はお前も連れていきたかった」
「もう、いいから」
夜になって幸司が晴海の許へ車を走らせたのは一度や二度の事ではない。過去にどれだけ仕事と偽られて逢い引きを重ねられてきたのか。今更誤魔化そうとしても自分には通用しないと、美幸はそう思っていた。
「美幸、落ち着いて聞いて欲しい」
改まってそんなセリフを言われては、いよいよ幸司は晴海との未来を考えたのかと目に涙が溢れだした。美幸はこれ以上辛い思いをしたくなく、両手で耳を塞ぐ。
「美幸、心して聞いて欲しいんだ」
いよいよこれ迄かと涙が頬を濡らす。聞きたくない幸司の言葉を塞いでいた手を掴まれ、外された手は幸司にしっかり握りしめられる。
「幸司さん……」
「大石部長が、美幸のお義父さんが、昨夜入院したんだよ」
「……え?」
予想もしない話の展開に頭が着いていかない美幸は呆然としている。
「お父さんが入院? どうして? 何でなの? いったい……やだ、お父さん」
「大丈夫だ。お義父さんは大丈夫だよ」
「でも、どうして? 倒れたの? あ、直ぐに行かなくちゃ」
幸司の握りしめる手を払い除け、急いで出掛ける準備をしようとするが、オロオロして美幸はその場に座り込む。溢れる涙はますます頬を濡らし唇は震える。
美幸の前にしゃがみこんだ幸司は、美幸の頬に手を当て流れる涙を拭いとる。そして、背に腕を回しぎゅうっと抱き締めてやる。
「美幸、俺がついている。そんな顔をするな」
思いがけない幸司の優しい言葉に美幸は更に泣きじゃくった。