神様修行はじめます! 其の五
「大丈夫だよマロさん。そんな半ベソかかなくても、意外と似合ってるから自信もってよ」


 似合ってるのが良いことなのか悪いことなのかは、ひとまず触れないことにしておこう。


「ですが、せめて化粧をさせてほしいのでおじゃる。このような顔をさらしては、端境一族末代までの恥におじゃりまする」


 ……そうなのよね。なにが一番異様に感じるって、いつものマロ化粧をしてないのよ、マロさんが。


 まぁ、あんな平安化粧の顔で町中をうろつき回るわけにはいかないよね。


 だから貴重な素顔をさらしているんだろうけど……。


「やっぱりマユ毛、ないんだね。一本も……」


 マロさんの顔には、実はマユ毛というものが存在していない。


 前に聞いたことがあるんだけど、マユ化粧をするために自前のマユは邪魔だから、毛抜きで一本残らず抜いちゃってるんだって。


 で、分かる人は分かると思うけど、人間の顔ってマユ毛がないと迫力満点なの。すっげ怖いの。


 だから今日のマロさん、すっげ怖い……。


 マユなしの作業着姿って、どっから見てもヤンキー上がり。それがマロさんの本性とかけ離れすぎてて、いっそう哀れを誘う。


「里緒殿、お白粉を持っておじゃりませぬか? 紅は? お歯黒水は?」


「持ってるわけないじゃん」


「典雅よ、いい加減に諦めよ。ほれ、小娘も来たところで永久の探索に出かけるぞ」


「あれ? しま子は?」


「さっきからずっと、あっちで拗ねておるわい」


「拗ねる? あぁ、自分にだけ衣装がなくて機嫌悪くしてるとか?」


 たしかに、あの体格に合う衣装はないだろうな。さすがに。


 でもお相撲さんの『まわし』とかだったら、なんとかなりそう。ないかな? まわし。


「いいや、留守番を言いつけたら、へそを曲げてしもうたのじゃよ」


 あ、そうか。しま子は屋敷の外には出せないもんなぁ。


 他の人は変装できるけど、しま子は無理だもんね。『まわし』をつけた赤鬼が外を歩き回ろうもんなら、ヘタすりゃ人気者になってしまいそうだし。


 ここはおとなしく留守番しててもらうしかない。
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