神様修行はじめます! 其の五
「小娘よ、お前にも礼を言わねばならぬな。よくぞ炎の入道を退けてくれた」


「あー。それなんだけど、あたし実はなんにもしてないんだよね」


 なんか、炎に包まれたところまでは覚えているんだけど、その先の記憶があんまりないんだ。


 気がついたら勝手に炎が消えてたんだよ。でも炎が消えたってことは……。


「やっぱりあたしが入道を倒したってことなのかな?」


「倒したわけではないよ。あれは、自分本来の性質を取り戻しただけだ」


 相変わらず庭先に立ったままで、門川君があたしの疑問に答えた。


「あの異形は、自然の道理そのものなんだ。なのに自然の摂理を曲げて水絵巻で強引に復活させられて、誰かに利用されるような存在ではないんだよ」


「でも、利用されてたよ?」


「だからその不自然さに気がついたんだよ。同じ炎の種族のキミと触れ合ったことで」


「あたしと?」


「キミは一級品の単細胞だ。キミという究極に単純な炎の原理に触れたことで、入道は自分本来の『決して誰にも支配などされない』という、存在意義を取り戻したんだよ」


 究極の単細胞って、それ間違っても褒め言葉の部類じゃないよね?


 それはともかく、つまり入道は催眠術にかけられていたような状態から、我に返って冷静になったってこと?


 そんで水絵巻の支配から解き放たれて、自分の意思でここからトンズラしたってわけだ。


「じゃあ、あたしが炎に包まれていたときに痛くも痒くも熱くもなかったのは、ぜんぜん攻撃されていなかったからなの?」


「世の中には『冷炎』という、低温度の燃焼現象も存在しているんだよ。知らないのか?」


「そうなんだ! 知らなかった! いやー、世界って奥が深いね!」


 それで門川君は、入道と戦うことばかり考えていたあたしに、『そうじゃない』って言い続けてたのか。


『意思疎通しろ』って、そういう意味だったんだね。


「そこまで見越していたとは、さすがは門川君! やっぱりただの意地悪メガネ男じゃないね!」


「まったく褒めていないだろう、キミ」


「いやいや、褒めてる褒めてる本気MAXで褒めてるよ!」


 ほんとに素直に感動しているあたしの様子に、門川君は溜め息まじりでメガネのブリッジをクイッと持ち上げる。


「キミは一応、炎の一族の末裔だろう? 門外漢の僕に感心する前に、もう少し自己研鑽に励みたまえ」
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