神様修行はじめます! 其の五
 そうは言っても、滅火の炎は普通の炎とは性質が違うんだもん。


 科学を勉強したって意味ないよ。あたし、無意味な努力はしない主義なの。


 ところであの入道、どこへ姿を消したのかな?


 なんでも外国には、何十年間もずっと燃え続けている天然ガス田があるらしいけど、そこいら辺りで、第二の人生を満喫できるといいな。


 それだったら、ほっといてもそんなに実害はないだろうし。


「あのぅ、麻呂もそろそろ術を解いてもよいでおじゃりますか?」


 マロさんが、おずおずと疲れたような声を出して会話に割り込んできた。


 あ、そうだ。マロさんもずっと結界を張り続けて、術を発動しっぱなしだったんだ。ずいぶん消耗してるはず。


 でも門川君は、ゆっくりと首を横に振った


「いや、もうしばらく結界は必要だ。まだ……」


 そして、視線を庭先へと向ける。


「まだ決着はついていない」


 その視線の先には、ひとりの男の姿。


 荒れ果てた中庭の向こう側に、きちんとヒザを正して座り込んでいる、蛟 成重がいた。


「地味男……」


 災いの発端。すべての元凶。


 彼は深く視線を伏せ、眉ひとつ動かさずに座っている。


 濃い夜の闇と陰影に覆われた表情から、その胸の内は読み取れなかった。


 龍も、入道も、九尾も、彼が放った刺客はもういない。


 いよいよ万策尽きた今、まるで切腹前の武士のように、地味男は痛々しいほど張りつめた空気を身に纏っていた。


 あたしは、そんな彼にかける言葉を見失う。


「……ねえ、地味男」


 思い切って話しかけておきながら、やっぱり、次の言葉に迷う。


 目の前の男に言ってやりたいことは、ギガ盛りどんぶり並みにあるはずなのに。


 いざ彼を前にして、なにを言えばいいだろう。


 心から愛した相手を、互いの想いが通い合ったその瞬間に、理不尽な死によって永遠に奪われてしまった人に。


 深すぎる愛と悲しみゆえに、ひとつの世界を生け贄に捧げようとした人に。
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