神様修行はじめます! 其の五
「水晶さんはさ、あんたの心の中にいるよ」


 ……あぁ、なんて陳腐な言葉だろう。


 よりによって、こんなことしか言えないなんて。


 口にしてみて初めて分かる。この言葉が、言う側にとってどんなに都合のいい言葉か。


 そして言われる側にとっては、どれほど無意味に聞こえる言葉であるかを。


 それでも……。


 伝えきれないことは百も承知で、それでも地味男に伝えなければならない。


 あたしの中にしま子がいるように、地味男の中にも水晶さんがいるという、偽りのない事実を。


「あんたの心の中の水晶さんを、彼女の願いを、肝心のあんたが穢しちゃダメなんだ」


 水晶さんが伸ばした手は、届かなかった。


 それでも真っ暗な深い水の底で、届かぬ光を放ち続けている水晶の草原は、決して無意味なんかじゃない。


 あんたが、あの光を無意味にしちゃいけない。


 だから彼女の手をとってあげて。


 彼女の純粋で美しい願いを、あんたの手でしっかりと受け止めてあげて。


「あんたが受け止めてくれれば、水晶さんの叶わぬ願いも……」

「報われると?」


 視線を深く下げたまま、唐突に地味男の唇が動いた。


 あたしは息をのみ、胸を不穏にざわめかせながら、目の前の男の真意を闇に透かして窺う。


 なぜなら、その声に明確に含まれる感情は……


 とても『共感』と呼べるものでは、なかったから。


「あぁ、美しい。なんと美しい言葉なのでしょう。あなたの言葉は、美し過ぎるほどに美しい。そして……」


 淡々と言葉を紡ぐ地味男の唇が、クッと歪んだ。


「私は、あなたに申し上げたはずだ。『過ぎたるは猶、及ばざるが如し』と」
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