神様修行はじめます! 其の五
 ほんのわずか、笑いを含んだ声で地味男が答えた。


「愛する者が、生きながら体中の体液を搾り取られている姿を見ながら、手も足も出せずに泣き喚いていたときの声でしょうか?」


 糸のようになって嗤う細い目に、壮絶な陰が宿る。


「ああ、手足と言えば、水晶の千切れた手足が私の体の上に降ってきたときの、声無き悲鳴でしょうか?」


 にこりと微笑む唇の、不自然に歪んだ形。


「この世で最も愛する人の崇高な自己犠牲が、ただの無駄死にだったという事実を知ったときの、衝撃でしょうか?」


「蛟よ、それは……」


「どの声を聞いたのです? あなた様は私のどの声を聞き、なにを理解なさったと言うのですか?」


 地味男の顔から、スッと笑顔が消えた。


「……不可能だ。誰にも私の声は届かない」


 細い目は研ぎ澄まされた刃物のように鋭く、口角の下がった唇は恐ろしく冷淡な声を紡ぐ。


 その表情から、声から伝わるものは、絶対零度にも似た冷徹な憤り。


 触れれば皮膚を剥ぐほどの、極限に冷え切った感情の果て。


「水晶を失い、私は生きながら地獄に落とされた。地獄の底で孤独に喘ぐ私の声など、地上にいる者たちに届くはずもない」


「たわけが! 釈迦に説法じゃわい! 我の前で知ったことをぬかすでないわ!」


 それまで冷静だった絹糸が、とたんに猛々しく吠えた。


「地獄というなら、この地上こそがまさに地獄じゃ! 千年の地獄の中で、お前のような者が泡のように生まれては消えていくのを、我がどれほど繰り返し見てきたと思うか!」


 黄金の目が凛と光り、赤い血の滲んだ牙を剥く。


 絹糸にとって、それはどうしても譲れない叫びだった。


「自分ひとりがすべての不幸を背負っている顔をしおって! じっと耐え忍んできた者たちが守り続けた世界を否定して何とするか! いい加減、目をさませ!」


「守ることも、耐える必要も、もうない。この決断こそが、地獄の憂き目に苦しみ続けた者たちに差す、唯一の光明なのです」


「光明じゃと!? ただの独善じゃ! お前の独りよがりも甚だしいわ!」


「ですから、申し上げたはずです。『私の声は、誰にも届かない』と」
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