神様修行はじめます! 其の五
―― ゾワ……


 空気が囁くような、不気味な音がした。


 ギクリと音の方を振り返ると、九尾が倒れている床から、黒い煙のような影が広がっている。


 地下から湧き出た水が周囲に滲むように、実体のない黒い物質がジワジワと床の上を這って、こっちに近づいてくるのが見えた。


 あの黒い影、なんなの?


 なにかがジュッと溶けるような音と、ツーンと鼻を突く臭いがして、あたしの顔から血の気が引いた。


 これ、異界の強烈な妖気に当てられて床が溶けてるんだ!


 つーことは、あの影に触れたら、あたしの体もドロドロに溶かされちゃうってことですか!?


 あの影、一直線にこっちに向かって突進して来てるんですけど!


「きゃあぁ! こっち来るな来るなー!」


「天内君! そこから逃げろ!」


「無理! 体が動かないの! もうガス欠!」


 チッと舌打ちした門川君が、無茶を承知で術の威力を上げたとたん、術光が大きく弾けた。


 バチバチと火花が散り、その衝撃で門川君の体がグラッと揺れて、両手の印が弾き飛ばされそうになってしまう。


 うわあ! 門川君、手を放しちゃダメダメダメー!


「ぐっ……!」


 危ないところで彼は持ちこたえた。


 でも大きくバランスの崩れてしまった術式は、制御を失って暴走しかけて、ショートするように小さな光を放って点滅している。


 今にも力尽きてしまいそうな危うい光だ。


「ぐ……う……!」


 それをなんとか落ち着かせようとして歯を食いしばる門川君の目は、瞬くことを忘れたようにカッと見開かれたまま。


 額には玉のような汗がじっとりと浮かんでいる。


 その、ものすごく余裕のない表情を見たあたしは、恐怖と焦りで気が遠くなりそうだった。


 門川君がこんな表情するなんて、本当にもう限界が近いんだ。


 でも門川君が負けたら現世が終わってしまう!


 お願いだから頑張って門川君! あたし、自分のことは自分でなんとかするから、集中して! 
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