神様修行はじめます! 其の五
「お、お岩さん。それ、元に戻るんだよね?」


 原形をとどめないほど壊れてしまっている水絵巻を指さしながら、あたしはお岩さんに確認した。


 自分の声がひどく弱々しくて、頼りない。


 だって金細工に使われていた黄金が、なんだか金箔みたいに薄くペラペラになっちゃってるし。


 しかも水絵巻の一番の売りである『水』が、一滴も見当たらないんだもん。


 壊れた拍子に空気中に蒸発しちゃったのかな? ヤバくない? ちゃんと元に戻るかな?


「戻す方法、あるんだよね? あるから壊したんだよね?」


「そんな方法、知りませんわ」


「ちょ、お岩さん!?」


 平然と言い切ったお岩さんに、あたしは思わず大声を上げてしまった。


 悪い冗談はやめてよ心臓に悪い! 水絵巻って門川の家宝なんだよ!? 先祖伝来の家宝!


 元に戻せなかったら、お岩さん、ただじゃ済まないでしょうが!


 ただじゃ済まないどころじゃ済まないってば! 処刑されちゃうよ! 死罪だよ死罪!


「冗談だよね? そうなんでしょ? 本当はちゃんと元に戻るよね? ね、絹糸?」


 頬をヒクつかせながら、あたしは絹糸に問いかけた。


 絹糸はなにも答えず、恐ろしく真剣な顔でお岩さんを見ている。


 その目は絶望したように暗く沈んでいて、一条の光明も見られなくて、あたしは安心するどころかますます不安に陥ってしまった。


「か、門川君?」


 門川君は、まるで人形みたいに完全に無表情で立ち尽くしている。


 あの表情は、ものすごい勢いで頭を回転させているときの顔だ。


 絶体絶命の窮地に陥った時とかに、必死になって解決策を探しているときの表情。


 つ、つまり今、絶体絶命? 必死になって解決策を絞り出さなきゃならないほど、お岩さんは追いつめられた状況ってこと?


「クレーターさん、水園さん」


 一縷の望みをかけて、あたしはふたりに声をかけた。


 小浮気一族なら、なんとかなるよね?


「きっと水絵巻を元通りに復元できるよね? そうでしょ?」


 お願いクレーターさん、そうだと言って。お願いだから。


「…………」


 でも、返事はなかった。


 クレーターさんと水園さんは、真っ青を通り越して真っ白な顔色で硬直している。


 そのままバタンと後ろに引っくり返ってしまいそうで、声を出す余裕もない。


 神も仏も、救いもなにもない皆の様子を見て、さすがにあたしも現実を直視するしかなかった。


「そんなぁ……」


 直視した現実が重大すぎて腰が抜けて、その場にヘナヘナと崩れ落ちてしまう。


 頭の中で最悪のフレーズがぐわんぐわんと響いて、全身から血の気がスーッと引いて心臓がキリキリと冷えていく。


 お岩さんが……処刑される……。


 ど、どうしよう……。


 どうしよう。どうしよう! どうしよう!!
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