神様修行はじめます! 其の五
 諭すような声で、地味男は言った。


 その穏やかな表情に微塵も迷いはない。


 誰かが犠牲になるのは間違っていると言いながら、この男はこんな当然の顔をして、自分が犠牲になると言うのか。


「あ、うぅ……」


 声を出せない水園さんは柳眉を吊り上げ、彼の言葉を拒絶した。


 そして懸命に地味男に向かって手を伸ばそうとするけれど、どうしても動かない。


 キリキリと歯を食いしばる彼女の目から、無念の涙が溢れ出る。


 それでも彼女は、諦めきれぬ願いを込めて手を伸ばし続けた。


 今度こそ、今度こそ見殺しにはしない!


 亡き妹が愛した人だけは、この身に変えても絶対に死なせはしない!


 けれど…………。


「さようなら。水園殿」


 今生の別れの言葉が、追い求める相手の口から零れた。


 現実は何処までも無情で、願いは遠ざかる。


 身を切るほどの思いなんてお構いなしに、月は彼方へと去って逝く。


「あぁ……!」


 思いを言葉にすることすらできない水園さんは、涙を迸らせ泣きわめく。


 おそらく彼女の目には、あの日、死出の旅路へ見送った妹の姿と彼の姿が、重なっているだろう。


 水園さんは絶望の滾った叫びを震わせ、身を震わせて慟哭した。
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