失恋相手が恋人です
「ご、ごめん。
ちょっと今、髪が……」

「え?何?」

聞こえにくそうに聞き返してくる萌恵。

見ず知らずの人に丸聞こえの会話が居心地悪い。

「う、ううん。
ごめんね、萌恵。
どうしたの?何かあった?」

少しでも早く会話を切り上げようと急いで尋ねる。

私が食堂を出てから十分も経っていない。

「あ、そうなの!
沙穂、まだパン買ってない?」

なぜかうきうきした声の萌恵。

「うん。
まだだけど」

「良かった!
さっき吏人から連絡あってね、吏人、今日三限目休講になったんだって。
で、私達、今日はもう講義ないでしょ?
この間話してたカフェに、吏人の友達と一緒にランチをしに行かないかって言われたんだけど、行かない?」



吏人くんは経済学部二回生の萌恵の彼氏だ。

染めていない真っ黒な髪に黒縁メガネ、長身。

奥二重の瞳に高い鼻梁の整った容姿をしている。

一見、話しにくそうな印象を受けるけれど、とても穏やかな性格の優しい人だ。

吏人くんは萌恵と出身高校が同じで、高校時代から付き合っている。

高校時代、かなりもてていたらしい吏人くんは、女の子の接し方が自然で、萌恵の友人の私にも親切にしてくれている。

「そうなんだ……」

先週の萌恵の様子が脳裏に浮かぶ。

吏人くんのバイトが忙しいらしく、すれ違ってばかりでなかなか会えないと嘆いていた。

「萌恵、私はいいよ。
図書室に借りていた本も返却に行かなきゃいけないし」

「え?それなら正門で待ってるよ」

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