失恋相手が恋人です
「……いや、さすがにそんなことはしないけど。
ずっと鳴ってるから、何か急ぎの用事でもあるのかなと」

鳴ってる?

何が?

返答のない私を訝しんだのか、男性は私の斜めがけバッグを指差した。

振り返ることのできない私はその指を視界の端に捉える。

綺麗な指だった。

切り揃えられた爪に長い指。

私は指し示してくれた方を見ずに男性の指に注目していた。

「……スマホ」

またもや彼が呟く。

「えっ。
あっ、そっか、スマホ!」

見とれていた私は彼の言っている意味にようやく気付いて、慌ててバッグからスマホを取り出す。

着信が、丁度途絶えた液晶画面を見ると萌恵からの不在着信が多数。

そしてまた萌恵からの着信が鳴り響く。

通話をオンにすると。

「あっ。
沙穂?
良かった、やっと繋がった!」

「萌恵?どうしたの?」

「どうしたの、じゃないよ。
今さっき、沙穂はスマホに出ないって話したばっかりなのに、もうっ」

食堂が騒がしいせいか、大きめの萌恵の声がスマホからもれてくる。

私の背後でクスッと小さく笑う声が聞こえた。



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