失恋相手が恋人です
あまりの偶然にぼうっとして。

私は桧山くんを凝視してしまった。

話している声を初めて聞いたせいか、わからなかった……。

桧山くんが私の髪からゆっくり長い指をはずす。

私の髪がさらっと揺れる。

その一瞬が一瞬ではないみたいだった。

「……髪、切ってないから」

伏し目がちに彼は羽織っていたカーキ色のシャツの胸元を指差しながら言う。

「あ、ありがとう……」

自分の頬がかあっと熱くなるのがわかる。

きっと今の私は茹でダコ状態だ。

「……じゃ」

彼は用事は済んだ、とばかりに歩き出そうとする。

「あ、あのっ
ひ、桧山くんのボタンは大丈夫……でしたか?」

何か言わなきゃ、と必死に言葉を繋げる。

緊張して、舌が思うように動かない。

「……別に大丈夫だけど」

彼は私の名前を知らない。

そんな私が彼の名前を呼んだことを不審がることもなく、淡々と返答する。

きっと知らない女の子に名前を呼ばれ慣れているのだろう。

早鐘を打っている私の鼓動と真っ赤な頬にきっと、気付いていない彼は何事もなかったかのように、私の横を通り過ぎようとした。

その時。

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