失恋相手が恋人です
「……会いに来たんだ」

私の耳元で囁くように響く葵くんの声。

その一言に私の身体からストンと力が抜ける。

驚きと……嬉しさが混ざって何も言えなくなる。

「……ダメだった?」

腕のなかで微動だにしない私に、許可を求めるように少し不安そうな色を瞳にたたえて、彼は少し腕を緩めて私の顔を覗きこむ。

ああ、もう。

そんな目で私を見ないで。

そんなことを言わないで。

何も言えなくなるから。

期待してしまうから。

私の心臓が壊れそうなくらい大きな音を立てる。

「……だ、ダメじゃないよ」

火照った顔を見られたくなくて腕のなかで俯く。

「良かった」

私を抱きしめたまま彼はふわっと微笑んだ。

その笑顔に私の胸はキュウッと締め付けられる。

異性に抱きしめられることは初めてではないのに。

付き合った人だっていたのに。

どうして葵くんだとこんなに余裕がないんだろう。

どうしてこんなにドキドキするんだろう。

答えはひとつだけ。

……それはきっと私が葵くんを本当に好きだから。
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