きらきら
窓際が悪かったのかカーテンをしていても朝の冷気で目を覚ます。指を伸ばして厚地のカーテンから外の世界を覗くと高層ビルが見えてきた。もうそろそろ到着だ。スマホを確認して昨日のコメントチェック。思ったより炎上しなかったけどコメントはある。『素敵な彼でいいなぁ』『まさかの石原さとみ越え。うらやましい』『嘘つくなブス』『クリスマスの予定は何ですか?』☆るいーず☆のクリスマスは家族と過ごす案と本命彼氏と夜景デートプランがあって悩んでいた。まだ時間はある。今は自分にできる事をしよう。
いつの間にか隣の女子高生は身なりをきちんとしてイヤホンで音楽を聴いていた。何を聴いているのだろう。空気の汚れた高速バスの中でも、彼女はバラ色の頬をして凛としていた。きっと学校でも自分を持っていて自信に溢れ、その魅力だけで友達も多くクラスのカースト制度で上の部分にいるのだろう。制服を着崩しリア充で机の上に座り笑う姿を想像できる。
私は地味な女の子だった。友達も少なく問題はない子だけど特にいなくていい子。球技大会で何も参加しなくても誰も気付かない女の子。存在のない女の子。
その頃☆るいーず☆に会ったなら、彼女はきっと微笑んで私に優しくするだろう。でも次の日には忘れていて『えーっと誰だっけ?』って本気で言って私のプライドを踏みつける。いや私にプライドがあるのも気付かない。でもそれが☆るいーず☆だから彼女はそれでいい。隣の席の女の子は私の視線に気付きふと目線を絡ませた。物怖じしない目線は黒目がちで思ったより可愛らしかった。「食べます?」彼女はゴソゴソとバッグからキシリトールガムを取り出して私の手のひらに落す。ネイルをしていなくても彼女の爪はツルツルピンク色だった。
「ありがとう」思いがけない行動に私は焦って返事をすると、女の子はあどけない笑顔を返す。
「東京へは遊びに?」
もう出会う事がないだろうと、私は彼女に軽く聞く。女子高生のリア充は遠距離彼氏かライブか買い物か、そんな風に思っていると「学校を見に来ました」と、思がけない返事が戻る。
「今高2なんですけど、進路に迷っていて、進みたい学校を見たら自分がヒントをつかめそうで」
女の子は照れたように私にそう言い『おはようございます。長時間のバスの旅をお疲れ様でした、バスは予定通り到着時間に……』車内アナウンスの太い声に潰されて「東京だー」って声を上げた。カーテンが次から次へと開かれて都会の景色が窓いっぱいに広がった。
☆るいーず☆の住む世界がそこにある。