きらきら


三件目のホテルで紅茶を注文し撮影した画像を確認する。注意深く撮影したつもりが一切れ3000円の苺のショートケーキの画像が思ったように撮影できず、気に入った画像はミッキーマウスの手帳の端が写る。☆るいーず☆の手帳はミントグリーンのエルメスだからミッキーマウスはいらない。しかたないから彼氏が座ってる内容にしてスタンプでごまかそう。これだけあれば小出しにしてかなり使える。今は画像ソフトもあるからどうにでもなる。夕方からはイルミネーションが有名なスポットに移動してバス時間ギリギリまで撮影しようか。

スマホに夢中になっていると紅茶が冷めてしまった。私は何をやっても要領が悪い。画像に収めた苺のケーキの形と色は覚えているけど味は覚えていない。目の奥から痺れるような痛みが襲い顔を上げて大きな窓を見る。空が近い。

最上階フロアにあるカフェは神の領域。手を伸ばせば空があり海がある。規則正しく動く車は小豆粒のようで人間はつまようじの頭ぐらい小さい。狭い場所でうごめく人間たちを支配できそうな高さで別の意味で怖かった。会計をする前に画像を残したくて立ち上がり窓に近寄ると、淡いクリーム色のケリーバッグが画像の端に入る。ふと目をやると窓際でひとりの女性が私を見ていた。

「バッグが邪魔ね。ごめんなさい」
落ち着いた声を出して彼女が言う。透明感のある肌が魅力的な綺麗なショートの女性。グレーのツィードのスーツを品良く着こなしパールのピアスが彼女をランクアップさせる。

「写りませんから大丈夫です」
そう言いながら、私は彼女のケリーをさりげなく半分ほど入れて景色を写した。☆るいーず☆の持ち物がひとつ増えて思いがけない満足感を感じてしまう。

「景色が綺麗ですね」
ケリーバッグのお礼に女性にそう言うと、彼女は小さく小首を傾げて「そうね、気付かなかったわ」そう自然に答えた。その答えだけで私の満足感は敗北感にチェンジしてみるみるうちに高層階から地上へと突き落される。

彼女の手元にある携帯が光を帯びる「あら光一さん、遅くってよ」小さく微笑んで彼女は独り言を言い、LINEを読み満ち足りた顔を見せる。私は軽く頭を下げて彼女から離れると、彼女は「ごきげんよう」と優しい声を出してきちんと挨拶してくれた。彼女はこの景色が当たり前の世界の住人。☆るいーず☆もそうかもしれない。

手を伸ばしても私には届かない。
< 5 / 17 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop