きらきら
堀田君は遠慮なく課長の机に足を上げ、慣れた手つきで蛍光灯を取り替える。バスケ部のエースはもうすっかり電気屋の二代目で作業着もよく似合う。
「はい終わり。請求書は後から持って来ます」
一礼して古い蛍光管を手にしてから、堀田君は井上さんの陰に隠れる私を見つけて嬉しそうに笑う。
「課長。サボっていい?同級生のよしみで佐々木さんにコーヒー淹れてもらいたいんですけどー」
「しょうがないな。すぐ来たお礼にみっちゃん淹れてやって」
課長に言われて私は「はい」と返事をして小さな給湯室へと逃げた。堀田君と同じ空間から逃げれるのならコーヒーでも何でも淹れます。パタパタと給湯室へ行ってカップを用意してると背中に気配を感じる。
「サボるなら手伝って来いって言われた」
彼の屈託のない明るさが昔から苦手だ。
「いいよ。私がやるから」
どうにか彼を追い出そうとするけれど、堀田君は「いいからいいから」と私の横に並ぶ。堀田君とツーショットで横に並ぶなんて、高校時代の私には考えられない話だ。
「正月にクラス会あるんだけど案内行った?俺、幹事なんだけどさ」
「もう欠席の返事出した」
「なんでー?佐々木は成人式の二次会もいつの間にか消えてたじゃん。今度は最初から最後まで居ろよ」
「用があるから」
「それ変更できないの?卒業して5年目だろ。菊池も相馬も来るよ」
菊池君も相馬さんもクラスカーストでトップの人達。きっと私の顔なんて忘れてる。そして堀田君もその仲間。
明るくて楽しくて誰からも好かれる堀田君はクラスの人気者だった。ピラミッド底辺な私には遠くて眩しい人達。東京の大学を出てそのまま企業に就職すると誰もが思っていたのに、堀田君は地元に帰って来て電気屋さんを継いでいる。信じられない存在。
「出ようよ」
「嫌だ」
「佐々木ってさー」
お湯を注ぎながら堀田君は大きなため息をして私を見下ろす。そのため息は私がつくため息でしょう。『佐々木ってさー』その後の言葉は想像できるから言わなくていいよ。『佐々木ってさー暗い奴だと思ってたけど、暗いだけじゃなくて根性も悪いよな』って言いたいんでしょう。ポットから注がれる熱湯がフリーズドライの粒に注がれ黒い悪意の渦を作っている。