魅惑のプリズナー〜私は貴方に囚われた〜




「アリサ、戻ろう?」


そのまま、冷たい水の中でそっと私を抱きしめる仄かな熱。


二人ともびしょ濡れなのに、それでも彼は私を怒らない。


「僕はアリサと一緒にいたいんだ」



“行かないで”


そう言うのがきっと当たり前の状況で、そんなことを言えるのは誰よりも、大切な私の弟アサヒだけだろう。


私よりも背の高い彼は、体積分だけ軽くなった水の中で私の体を軽々抱き上げる。


足の下に腕を差し入れられて、陸へと戻る途中、心地のいいアサヒの心音を聞きながら私は呟いた。



「ありがとう」と——。




どうしてだろうと、考えても分からない。


何故だか言いたくなったから、口をついて出てきたのだ。


アサヒは微笑むばかりで、何も返しはしなかった。


私も、返答など求めてはいなかった。



< 155 / 326 >

この作品をシェア

pagetop