小さな村の大きな話
「僕の家族は代々“先生”ってものに信仰があったんだと思う。人の手本になるような人間になりなさいって」


「うん」


「さっきも言ったけど父は弁護士、母は教師。祖父は政治家だったし祖母は作家だった」


「本当だ。みんな先生って呼ぶ職業だ…」



「でも兄は、普通のサラリーマンになったんだ。
長男だったし並じゃない教育を受けてきたはずだけど、ここぞってときに弱いタイプだったから。受験失敗ちゃってね。それで家から追い出されて壱原を名乗ることされ許されなくなっちゃって…」


「お兄さんとは、今は??」


「仲いいよ。両親にバレないようにコソコソ会ってるんだけどね。
当時はずっと両親に目をかけてもらえる兄羨ましかった。
でも、僕がいざその立場になってよく分かった。両親や親戚からの期待を一身に受けて、応えられなければひどく叱責される自分の価値がその一点で決められるんだ」



ぎゅっと握りしめた拳がふわっと暖かくなった。
本田さんの手が僕の手をそっと開かせた。



「……辛かったよね」


「うん。でも一番辛かったのは、ずっと気づかず兄にそんな思いをさせ続けてきた事だよ。僕の分まで、たくさん背負わせた」


「先生の事大切だったんだよ」


「そんな訳ないよ。
あんなに努力してたのに一回の失敗で家から追い出されて、弟は楽にその立ち位置に立って…。
ずっと聞けないんだ。僕のこと恨んでるんじゃないかって、ずっと…思って…」



「やっぱり先生は人の気持ちが分からない人だ……。
あのね、お兄さんは幸せだよ。だって、先生がいるじゃない。
誰に疎まれても、嫌われても…たった一人でも自分を理解して無条件で考えてくれる人がいる…これってすごく素敵な事だよ!!」



この一言で僕はりんちゃんへの気持ちが少し変わったんだと思う。
僕らが付き合い出すのはこの出来事の少し後。
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