【完】もっとちょうだい。
芙祐の浴衣姿は、
色気という二文字で語ったらいけないやつだった。


「ぬ」

「ぬ?」

「何でもない」


危な。
あと少しで脱がせていいか聞きそうになった。


「本当にお酒飲むの?」

「二人で飲んだことないし、よくね?」


「あたし、ほんとに弱いよ?」

「知ってる」

「うん知ってるね」


「だからアルコール3パー。ほぼジュース。前の焼酎とは違うし、いけるだろ」


はい、と並べた缶チューハイ数本。


「桃おいしそう」と芙祐が手に取った。

「じゃあかんぱい」


カツン、缶ビールと缶チューハイが杯をかわす。


「おいしー。しかも前みたいにお腹熱くないよ」

「意外と平気なんじゃねーの。焼酎だけ悪酔いするとか」

「そうなのかな?ビール飲んでみたい」


「え?はい」


芙祐が飲んだリアクションは完全に小学生のそれだった。


「にっが……」


なにその可愛い顔。


「やっぱりこっちがおいしい」


満面の笑みで桃のチューハイを飲み始めてから、10分後。


こてっと俺の肩に寄りかかってきた。


「何?」


「……酔ったかもしれない」


「うそだろ」


缶を持ち上げてみると3分の1も飲んでない。


それでここまで酔えるって。

エコか。燃費良すぎんだろ。
どんな能力だよ。


でも芙祐の頬はたしかにピンクで、目はとろんとしている。


寄りかかっていた体を起こして、
芙祐は俺に向き合った。


「ヤヨ……」


甘ったるい声が耳に残る。


その半開きの唇は、どう考えても俺の口を狙っている。


「いや、待って」


「えぇー、なんで?」


ぐいぐい来すぎだから!

俺の胸に手をついて、芙祐は唇を近づける。


「ヤヨ、すきぃ」


……まって。


もういい?

そのまま、俺は芙祐を反転させた。


布団に仰向けで倒れた芙祐。


それを覆いかぶさるように見おろす俺。



事態はだいたいわかってんの?


いや、多分、絶対、わかってない。


だってこいつ普通に起き上がりやがった。


そのうえ「あついー」とか言って、浴衣の衿をもって、パタパタと風を取り込んでる。


俺は見ないように、ビールのんだよ。


一応、紳士でいたいからって、全力で。


精神統一。

そんな俺の隣で、


「きもちー」


と悪魔がぱたっと布団に倒れた。


精神に乱れ。
乱れどころか、精神統一は終了。



この悪魔、まじで寝る気なの?


それは多分、悪いけど。


叶えてあげられそうになくなった。


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