もう一度だけでも逢えるなら
「さあ、どうぞ上がってください」
 私なりの最高の笑顔で玄関の扉を全開に開いた。

「あの……」

「何でしょうか」

「靴を履いたまま、上がっていいですか?」

 へ? 土足で上がるの?

「僕は……靴が脱げないんです」

 へ? どうして脱げないの?

「靴底は汚れていませんので」

 いやいや、そういう問題じゃなくて。

「ダメですか?」
 水樹さんはずっと真顔で言っている。

 その表情からは、冗談で言っているとは思えない。

 ここで水樹さんのご機嫌を損ねるわけにはいかない。

 床が汚れたら、あとで掃除すればいいだけ。

「土足で構いませんよ」

「では、土足で失礼します」
 水樹さんは、茶色のブーツを脱がず、土足で私の部屋に上がった。

 コツコツコツコツコツコツ。水樹さんのブーツの音が鳴り響く。

 水樹さんが言っていたとおり、靴底は綺麗なよう。

 床は全く汚れていないし、傷もついていない。

 私は冷蔵庫から、ビールとワインを取り出した。ルンルン気分で。
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