もう一度だけでも逢えるなら
「お盆休みはあるんですか?」

「数日、休もうかと思っています」

「人間、休まないとダメですからね」

「そうですね」

「何かご予定はあるんですか?」

「特にはありません」

 お盆休みに予定がないということは、彼女や妻子は間違いなくいない。私はそう勝手に判断した。

「海にでも行きませんか?」

「海には行けないんです」

「どうして行けないんですか?」

「海は遠いからです」

 確かに、この街から海は遠い。歩いて行ける距離じゃない。電車で三十分くらい掛か
る。

 でも、それは理由にはならない。

 電車に乗れば、簡単に行ける。タクシーでも行ける。レンタカーを借りて、私が運転してもいい。

 水樹さんは、どうして海に行けないのか。相変わらず、謎めいた人だと思う。

「海か……。最後に行ったのは、四年以上前だな」
 水樹さんは、悲しげな表情でつぶやいた。

 私もそんなに海には行かない。最後に行ったのは、五年くらい前。その当時、付き合っていた元カレと。あまり思い出したくない過去。
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