溺愛副社長と社外限定!?ヒミツ恋愛

「変な話を聞かせてしまいましたね」


彼はそう言うと、コーヒーを一気に飲み干した。

いっそのこと『私がナオミです』と言えたら、どれだけいいだろう。
『嘘を吐いていてごめんなさい』と頭を下げれば、許してもらえるかもしれない。

自分にだけ都合のいい考えが浮かび、急いで打ち消す。
そんなことが許されるはずはない。
嘘を吐いた時間に比例して、罪は重くなる。
膝の上に置いた書類を握りしめ、奥歯に力を込めた。

彼の背中を見送り、エレベーターへ乗り込む。
結局、買ってもらったコーヒーはひと口も飲めなかった。
中身が満杯に入った缶を持ったままパネルの“閉”をタッチする。
ところが、一度閉じかけた扉が再び開いた。


「すみませ――」


亜樹だった。
彼女は私を見て、サッと身を翻す。


「亜樹、ちょっと待って」


咄嗟に呼び止めた。
それでも足を止めようとしない亜樹を数歩ほど追いかけて、その腕を掴む。


「ねぇ、亜樹、私なにかした?」

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