溺愛副社長と社外限定!?ヒミツ恋愛
すぐに動き出せずにグズグズしていると、扉が自動で閉じてしまった。
さっきとは真逆の静かな空気に包まれる。
ほぼ無意識だった。
パネルの一階をタッチする。
手が勝手に動いたように思えた。
ほんの少しだけ。そう、ちょっとだけ。
京介さんがどんな人とお見合いをするのか、それを見るだけだから。
私では到底足元にも及ばないような女性に違いないだろうから、その姿を見れば本当の意味で諦めもつく。
これは、そのための儀式の一種。
そんなことを考えながら、“山口楼”を目指した。
客室係の制服では目立ってしまうだろうと、ベストを脱いだ。
店の入口が見通せるところに私より大きな観葉植物が飾ってあり、そこに身を潜める。
昼時を過ぎたそこは、ひと気はそれほど気にならなかった。
ほんの数分が過ぎたときだった。
見覚えのある女性が右手から歩いて来るのが見えた。
――京介さんのお母様だ。
若草色の着物を着て、威圧感のあるオーラを放ちながら社長の隣を歩いている。
私と会ったときとの決定的な違いは、その表情だ。
穏やかな笑みを浮かべていた。
それもこれも、理想の相手との縁談がまとまりかけているからだろう。
そのうしろから京介さんの姿が見えて、嫌でも心拍数は上がる。
私に気づいてほしいような、ほしくないような、どっちつかずの複雑な心境だった。
どっちにしろ、気づいたところで私はナオミじゃない。
上川美緒奈だ。