溺愛副社長と社外限定!?ヒミツ恋愛
「私の実家は創業して百年が経つ老舗旅館だったの」
井森さんは鍋の中身を物色しながら話し始めた。
その旅館があるとき経営難に直面し、資金援助を申し出たのがル・シェルブル、うちの会社だったそうだ。
援助してもらうかわりに、井森さんに副社長との結婚話が持ち上がり、婚約まであとひと息というときのこと。
実は井森さんには学生時代からの恋人がいて、副社長とはどうしても結婚できないと井森さん本人が直談判したそうだ。
社長や奥様はともかく副社長はそれを気の毒がって、結婚の話を取り下げ、白紙になるだろうと思った資金援助だけを買って出てくれたようだ。
ところがその一年後、彼とは破局し、援助も虚しく旅館は倒産。
井森さんを救ってくれたのは、またもや副社長だったらしい。
ル・シェルブルで働けるよう、取り計らってくれたということだった。
「あの時、副社長と結婚しておけばよかったって、今でも後悔してる」
半分冗談っぽく井森さんが言う。
「でも、だからと言って、今さら結婚してくださいなんておかしな話だしね。すっかりタイミングを逃しちゃった」
「……副社長のこと、好きなんですか?」
井森さんは首を横に振った。