溺愛副社長と社外限定!?ヒミツ恋愛
私が勤めている“ル・シェルブル”は、日本に三十のホテルを展開している。
傘下に三つのホテルブランドを持ち、昨年度の売上は一千億円。
従業員は三千人を超す。
日本屈指のホテルだ。
私は大学を卒業後に入社し、ホテルのフロントやレストランなどで経験を積んだあと、本社の企画部へ一年前に配属された。
ホテルにいたころに染み付いた接客が、今のように咄嗟に出てしまうことはよくあることだった。
「ル・シェルブルって知ってる?」
唐突に聞かれて、心臓が飛び上がる。
――まさか私に気づいた?
副社長の顔色を窺いながら、引き気味に頷く。
正体がばれることへのカウントダウンのように、鼓動が嫌なリズムを刻んだ。
「父親がそこの社長をしているんだ」
「……そうなんですね」
副社長は胸ポケットから名刺を取り出した。
それを私に差し出す。
つまり、私の正体にはまだ感づかれてはいないということだ。
細く長く息を吐き出す。
何度か見たことのある副社長の名刺を受け取り、初めて見たかのように「副社長さんなんですね」と言った。
彼は軽く頷き、「そこにいる気分になったよ」と微笑んだ。