行雲流水 花に嵐
 がたた、という物音に、お楽が腰を上げた。

「何だ、旦那かい。こりゃまた妙な土産だね」

 土間に投げ出すように転がされた竹次を見、お楽が眉を顰める。
 宗十郎は上がり框に腰掛け、竹次に目をやった。

「さて、いろいろ喋って貰おうか」

 腕を組んだ宗十郎を、竹次は足の傷を押さえながら睨み付けた。

「き、聞きたいのはこっちだ! 俺はお前なんかに喋ることはねぇよ! 大体お前、俺にこんなことして、ただで済むと思ってんのか! 俺が一声かければ、勝次兄ぃが動くぜ!」

「馬鹿か。お前のことなんざ、勝次は何とも思っちゃいねぇよ」

 冷めた目で言い、宗十郎は、ずい、と竹次に顔を近付けた。

「それにお前、帰れるとでも思ってんのか?」

 くん、と刀の鯉口を切る。
 ひく、と竹次の顔が強張った。

「質問すんのは俺だ。まず、亀屋の特別座敷について教えて貰おう」

 左手で鯉口を切ったまま、宗十郎が竹次に言った。
 顔を引き攣らせたまま、竹次は逡巡するように視線を揺らす。
 が、口は引き結んだままだ。

 瞬間、宗十郎が座ったまま上体を後ろに反らせた。
 同時に、しゃっと刀が鞘走る。

「ぎゃっ!」

 宗十郎の前に転がった竹次の頬から血が噴いた。
 刀が、頬を抉ったのだ。

 顔を両断しないよう、上体を反らせることで間合いを遠くした。
 相手が動かない状態とはいえ、抜刀の勢いのまま上体の反りだけで絶妙の間合いを読むのは、そうそう出来る技ではない。

「さっさと言わねぇか。俺は気ぃ長いほうじゃねぇんだ」

 ちん、と納刀し、宗十郎が静かに言う。
 元のように腕を組み、何事もなかったかのように座っている。
 陰気な雰囲気なだけに、より不気味である。

 寒気を覚えながら、竹次は顔を背けた。
 途端に先程斬られた頬に、再び激痛が走る。
 宗十郎が蹴ったのだ。

 さらに宗十郎は立ち上がって、竹次のふくらはぎを踏みつけた。
 初めに斬られた傷から、止まりかけていた血がまたあふれ出す。
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