行雲流水 花に嵐
「う、うおぉぉ……」

 這いつくばって、竹次が吠える。
 その口にも、宗十郎は蹴りを見舞った。

「吠えてんじゃねぇよ。聞いたことに答えろ」

 歯が折れ、口の中も真っ赤になる。
 お楽が、顔をしかめて宗十郎を止めた。

「旦那。口潰しちまったら、喋るものも喋られなくなるよ」

「うるせぇからよ」

 舌打ちと共に言い、宗十郎は再び座った。

「あんたもさっさとお話しよ。まぁ……どこまで耐えられるか見るのも悪くないがね」

 お楽が、竹次を見下ろして目を細める。
 女子のくせに、どうやらお楽は、このような場は嫌いではないらしい。
 にやりと笑い、唇を舐める。

 何故か宗十郎の所業よりも、そちらのほうに、竹次は粟肌立った。

「面倒臭ぇな。指を一本ずつ落としていくか」

 すらりと、宗十郎が刀を引き抜いた。

「珍しいね。足や腕じゃないんだ」

「それじゃ傷がでか過ぎて、話にならねぇんだ。ぎゃあぎゃあ喚いてうるせぇだけになるしな」

「そうか。指だったら十本あるしね。足も含めて二十本か。死ぬ心配もないし、何本まで耐えられるだろうねぇ」

 空恐ろしい会話をする二人の前で、竹次は両手をきつく握った。
 二人の様子から、そういうことを何とも思わずやってのけるのだろう、とわかったからだ。

「お楽。奴の手ぇ開いてくれ」

「嫌だよ。わっちの手が汚れるじゃないか」

「ったく、血を見るのは好きなくせに、血がつくのは嫌なのか。しゃあねぇ、足からだ」

 呆れたように言い、宗十郎が土間に降りる。
 そして、刀の切っ先を竹次の足の指に当てた。

「ま、待てっ!」

「あ?」

「待ってくれ!」

「嫌だね」

 刃が、指の付け根に食い込みそうになり、竹次は絶叫した。

「お、俺は特別座敷についてはよく知らねぇ! けど多分、南のほうだと思う! 舟で行き来してるようだったし」

 足の指の付け根から、少し血が流れた。
 が、切断することなく、宗十郎は刀を離す。
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