行雲流水 花に嵐
「ほんとに非常用だな」

 呟きながら、宗十郎は急な階段を上がった。
 頭上はぽっかり穴が開いている。

 端から開いている、ということは、また上の階の厠に出る、ということではないだろう。
 顔を出したところに用便中の者がいたら、気まずいことこの上ない。

 それでもどこに出るかわからないので、慎重に、宗十郎は穴から顔を出した。

「……廊下? いや物置か?」

 細長く狭い部屋に、ごてごてといろんなものが置かれている。
 そのとき、どたどたという足音が聞こえて来た。

「やべぇ。奴はここを使って下に降りるつもりだ」

 慌てて穴から出、宗十郎はその辺の長持ちの間にしゃがんで身を隠した。
 後から出て来た文吉も、急いで身を隠す。

 すぐにがらりと戸が引き開けられ、勝次が入って来た。
 一旦後ろを見、閉めるときは静かに戸を閉める。

「ったく、まさか片桐が、要蔵と繋がってたとはな。とんだ食わせ物よ」

 ふぅ、と息をつき、勝次が言う。

「でも手間が省けたじゃないですか。ここであの牢人共々殺っちまえば、邪魔なものはいなくなるし、竹次の仇も討てる。死体を要蔵のところに投げ込めば、恐れ戦いて、奴ら、色町から撤退するかもですぜ」

 勝次の言葉に男が応えた。
 どうやら一人ではないらしい。

「そう……さな。とりあえず俺たちは、あの人質を死守しねぇと。ガキは取られちまったらしいしな」

「なぁに、あの人数を切り抜けられるわけありゃあせんや」

 勝次が穴に消えた後を、男が笑いながら続こうとする。
 が、そこに宗十郎が姿を現した。

「雑魚が何人集まったって意味ねぇよ」

 ぼそ、と言いながら、抜いた刀を男の首に突き刺す。
 そしてすぐに、男の襟首を掴んで穴から引き剥がした。

 勝次の上に落としてもよかったが、この階段からどうやって外に出るのか知りたかった。
 またあの男どもを倒しつつ進むのはご免だ。
 隠し階段なのだから、楽に外に出られるはず。
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