行雲流水 花に嵐
「そこに仙太郎がいんのかい」

 立ち上がりながら、宗十郎が問うた。
 勝次が身体を宗十郎に向け、腰に差していた刀を抜く。

「お前、何者だ」

 勝次が切っ先を宗十郎に突き付けて言う。

「片桐は要蔵の子分だってな。お前もか」

「親分には世話になってるがな、子分になったつもりはねぇよ。単なる雇い主だ。まぁ今回の仙太郎とは、別の因縁もあるがな」

 その時、がしゃん、と蔵のほうで音がした。
 見ると扉の横の小さな格子窓から、仙太郎が覗いている。
 仙太郎は宗十郎を見るなり、格子を掴んで声を上げた。

「お、お前なんかに助けて貰うつもりはない! 帰れっ!」

 髷が崩れ、げっそりと痩せた仙太郎は、目ばかりがぎょろぎょろとしていて幽鬼のようだ。

「俺も出来ればお前なんぞ打ち棄てておきたい。けど一応金蔓ではあるんでな」

 一瞬仙太郎を見ただけで、勝次に視線を据えたまま、宗十郎は静かに言った。

「父上かっ? 父上がお前に頼んだのだろう! あの恥知らずがっ!!」

 なおも仙太郎は叫び続ける。
 こうなっても宗十郎に助けられるのは嫌だという。

「俺に救われるのが嫌なら、そこで自害でもしてくれれば、こちらとしても手間が省けるのだがな」

 うるさそうにそう言って、宗十郎は腰に差していた脇差のほうを、傍の文吉に渡した。

「これを渡して、自害して貰ってくれ」

「へえぇぇっ? いいんですかい?」

 驚きながらも、文吉は格子窓に近付く。

「おいっ! 勝手な真似すんじゃねぇ!」

 我に返った勝次が、ぶん、と刀を振って文吉を追い払った。

「仙太郎も武士なら、切腹でもして親父殿に詫びるべきではないのか」

 飛んで逃げて来た文吉を庇いつつ、宗十郎は呆れたように言う。

「私が何をした! 遊郭に通うのだって普通のことだ! 私はお前と違って卑しい辻君などで満足はしないからな! 女子もそれなりでないといかん」

「そういう見栄で、お家を潰す馬鹿がお前だ。挙句嫡男まで借金の形に取られるたぁ情けねぇ」
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