行雲流水 花に嵐
「……ほぉ。なかなか素早い」

 にやりと勝次の口角が上がった。
 宗十郎はまだ抜いていない。

 というより、抜く暇がなかった。
 今までの雑魚とは違い、勝次は油断ならない相手のようだ。

「お前さんも遣い手のようだな? 要蔵の右腕といったところか」

「どうかな。そういやお前も、亀松の片腕だったな」

 宗十郎は腰を落とした。
 刀の柄に手をかけ、左手で鯉口を切る。

 勝次の顔が引き締まり、刀を正眼に構えた。
 切っ先がぴたりと宗十郎の目に付けられている。

 ごくり、と文吉の喉が鳴った。
 双方の発する気が、周りの空気をびりびりと痺れさせる。

 じりじりと間合いを詰めていた勝次の足先で、ぱきん、と小枝が折れた。
 その刹那。
 限界まで高まった剣気が弾けた。

「きえぇいっ!」

 鋭い気合いと共に、勝次が刀を振り被り、一気に振り下ろす。
 同時に宗十郎も抜いた。
 しゃっと刀が鞘走り、次の瞬間青火が飛ぶ。

「くっ……」

 眼前で火花を散らした刀は、一合した後ぱっと離れた。
 ぴ、と血が飛ぶ。
 勝次が飛び退りながら、二の太刀を放ったのだ。

 宗十郎は勝次の重い斬撃に押され、体勢を崩したため、横に飛ぶのが精一杯だった。
 宗十郎の左の袖が裂け、血の色があった。
 だが浅手だ。

「抜いたな」

 勝次が宗十郎に向き直り、またにやりと笑う。
 居合は抜いたら威力が半減する。
 先の宗十郎の構えから、居合遣いと見たのだろう。

「確かに居合が一番威力を発するが」

 呟き、宗十郎は刀を構える。
 切っ先が地に着くほどの低い下段。
 勝次は再び正眼に取った。

 先程の勝次の斬撃の威力は半端なかった。
 下手に真っ向から受けていたら、耐えきれずに斬られていたかもしれない。

 こちらも威力のある居合で応じたからかわせたのだ。
 それでも体勢を崩した。
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