行雲流水 花に嵐
---先に仕掛けるよりも、後手に回ったほうがいいな---

 あの剛剣を受けられないなら、振り切らせてから仕掛けるしかない。
 ただ勝次も刀の届かない遠間から仕掛けるようなことはしないだろうし、直後にこちらも動かないと仕留められない。
 斬撃の間合いの中での駆け引きだ。

---一発で決めてやる---

 こちらの手の内を明かしてしまえば勝機はない。
 宗十郎は心を鎮めて勝次の斬撃の起こりを捕えようと、切っ先を見つめた。

 じり、じり、と二人の間合いが詰まる。
 再び気が高まり、勝次の身体が膨れ上がったように見えた。

---来る!---

 そう思うと同時に、宗十郎は己の切っ先を、ぴく、と浮かせた。
 この誘いに、勝次が反応した。

「とぅりゃあぁっ!」

 気合いと共に、刀が落ちて来る。
 宗十郎は引かず、右足を踏み出すや、上体を右に倒しながら下段から逆袈裟に斬り上げた。

 びゅん、と身体の左側に風を感じ、ばさ、と剛剣が左足の袴を叩いた。
 同時に宗十郎の手に、鈍く重い手応えが伝わる。

「ぐわぁっ」

 勝次が二、三歩たたらを踏むように前に泳ぎ、刀を取り落とす。
 両手で押さえた腹から胸にかけて、真っ赤に染まっている。

「とどめだ」

 宗十郎は振り上げた刀を一閃させた。
 びゅ、と血が飛び、勝次の首がだらりと垂れる。

「……お見事でやんす」

 文吉が、倒れた勝次を見、宗十郎に駆け寄った。
 そして蔵に近付き、刺さったままの鍵を回す。
 がちゃりと重い音がし、錠前が外れた。

「んっしょっと……」

 文吉が足を踏ん張り、扉を開ける。
 ぎぎぎ、と重く軋みながら、重厚な扉が開いた。

「ひっ……」

 へたり込んでいる仙太郎が、入って来た宗十郎を見て小さく悲鳴を上げる。
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