行雲流水 花に嵐
 亀屋を運営していた頭と幹部は始末する。
 亀松一家の者も、相当数討ち取るつもりだ。

 遊郭としては立ち行かなくなるだろうが、遊女は残る。
 その者らがどうするかで、見世がどうなるかも決まるだろう。

「遊女の中から誰か女将になれば、見世は続けられような。ま、あのままあこぎな手を使うと、親分が手入れするだろうが」

 女子が女将に立つならなおさら、付け届けは必要だ。
 特に色町の揉め事は一筋縄ではいかない。
 要蔵の助けが必要なのだ。

「女郎は関係ないな? お前が亀屋を潰したのであれば、女は自由なわけだな?」

 必死で言う仙太郎は、やけに嬉しそうだ。

「あ、そういや亀松の女がいたな。奴が女将か。あいつぁ追放だろうがな」

「あの女将がいなくなりゃ、それこそ皆自由だ! 浮草!」

 叫ぶや、仙太郎は見世のほうに駆け出していく。
 どこにそんな体力が残っていたのかと思うほどだ。

「おいっ! てめぇは大人しく親分のところに……。ていうか、見世に入るんじゃねぇよ! 邪魔だろがっ!!」

 急いで仙太郎を追いながら、宗十郎が怒鳴る。
 文吉も、とりあえず宗十郎を追った。

「何なんだ、あいつ。おかしくなったのか?」

「おそらく、入れ込んだ女郎を手に入れようとしてるんじゃねぇですか? 見世が潰れたんなら、身請け代もいらねぇでしょ」

「まだ目が覚めてねぇのか」

 重症である。
 請け出したところで、どこに連れて行く気なのか。
 妾宅などの用意はないだろうし、そんな余裕もないはずだ。

「まぁ家に連れ帰って家庭が壊れても知ったことではないがな。とりあえずあの男どもの中に入られると、また人質に戻っちまう」

 はたして片桐がどれだけ片付けてくれたか。
 おそらく中にいる男どもは、仙太郎のことなど知らないだろう。
 なら捕まらないかもしれないが、斬られる恐れはあるのだ。

「自害と違って単に殺られただけだったら、依頼事失敗じゃねぇか」

 ちっと舌打ちし、宗十郎は見世に飛び込んだ。
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