行雲流水 花に嵐

第十五章

　その少し前、片桐は見世の中で奮闘していた。

「ったく、一体何人雇ったの。次から次へと、きりがないわ」

　ぶつぶつ言いながら、ひたすら向かってくる男どもを倒している片桐の手に握られているのは箒の柄だ。
　先の部分は折っているので短くなっている。

　もっとも得物が箒の柄であろうと、適当に折っただけの竹の先は、ささくれ立って鋭い。
　十分凶器である。
　散々男たちを倒してきたので、残りの者は、大分腰が引けている。

「飽きてきたわぁ。あんたたちも、どうせ雇い主はあの世だわよ」

　とん、と箒の柄で肩を叩く片桐に、その場の男たちがざわめいた。

「勝次でしょ？　あいつは宗ちゃんに討たれてるわよ」

　実際どうなっているかはわからないが、宗十郎は勝次を追って行った。
　勝次も腕は立ちそうだったが、宗十郎だって並みではない。
　それはずっと一緒に仕事をしている片桐がよく知っている。
　宗十郎に狙われれば、まず間違いなく終わりなのである。

「その上の親玉は、あたしが殺るし」

　そう言った片桐の視線が、見世の正面の玄関に向いた。
　そこには、鶴吉を連れた亀松が仁王立ちしていた。
　いつもの福相は見る影もなく、ヤクザの親分の顔になっている。

「……旦那ぁ。こりゃどういうことだい？」

　静かに、亀松が口を開いた。
　それだけで、その辺の雑魚どもは、さぁっと引いた。

「遅かったわねぇ。見た通りよ。あたしゃ要蔵親分の命を受けて、亀屋を潰しに来たの」

「玉乃を手懐けたのも、そのためかい」

「まぁね。でもあの子は可愛いから、欲しくなったのも事実」

　片桐が言うと、ふ、と亀松は息をついた。

「要蔵の命か。ならここだけを潰しゃ、それでいいんじゃねぇか？　要蔵が仕切ってるのは色町だろ。遠く離れた伏見は、奴のシマじゃねぇ」

「そうね。別にあそこの船宿は、潰す必要はないかもね。女郎屋としての営業はバレたらヤバいだろうけど、内容は普通だし。それこそ特別な大物がお忍びで楽しむにゃいいところだわ」

「そうだろう。苦労して集めた、選りすぐりの女どもだからな」

　太った身体を揺らせて、亀松が笑う。

「ここは諦めらぁ。伏見は関係ねぇだろ。坊も逃がしちまったし、上月家のこともお釈迦だな。まぁお武家は体面が大事だから、いいカモなんだがな」

「貧乏武家なんか、搾り取れるものも知れてるわよ。町人よりも貧しいんだから」