行雲流水 花に嵐
---ま、いいか。一応竹ちゃんが生きてるか死んでるかで、都度理由を変えればいいわ。今はとにかく、ここを探ろう---

 そう決めたとき、微かにどすんと音がした。
 ん、と顔を上げると、廊下を歩いてくる足音がし、程なくすらりと部屋の障子が開いた。

「この娘はどうですかね」

 笑みを浮かべて入って来た亀松が、背後を示して言う。
 そこには綺麗な着物をまとった女子が控えていた。

「いいわよ。なかなか上玉じゃない」

「そりゃ、こっちは向こうの見世より手をかけてますからね。上玉揃いなんでさぁ」

 そう言う亀松に促された娘は、十五、六の垢抜けた美人だ。
 おすずよりも大分美しいであろう。

---ここに入り込むのは、あたしで正解だったわね。宗ちゃんだったら仕事にならないかも---

「旦那の相手をするにゃ、この玉乃(たまの)ぐれぇでないと」

「玉乃と申します」

 娘が三つ指をついて、頭を下げる。

「旦那にゃ勝次の奴がえらい世話になってるようで、気兼ねしねぇで楽しんでくだせぇよ」

 亀松が、障子を閉めて去って行く。
 娘は慣れたように、片桐の横に移動した。
 そして酌をする。

「玉乃って言ったわね。ここは長いのかい?」

 酌を受けながら問うと、玉乃はこくりと頷いた。

「小さいときから仕込まれて、もう十年になります」

「ふぅん? 船宿の女中にしちゃ色っぽいねぇ」

 かまをかけてみると、玉乃は、あら、と驚いた顔をした。
 そこで初めてはっきり目が合った。

 途端に玉乃が、はっとしたように目を見開き、頬を染める。
 片桐の美貌に気付いたようだ。

「だ、旦那様は、ご存じないのですか?」

 先程までの慣れた感じが吹っ飛び、赤くなりながら言う玉乃に、片桐はずいっと顔を寄せた。
 整った顔を寄せられ、玉乃の顔がますます赤くなる。
 この辺りが、やはり小娘だ。
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