拾われた猫。Ⅱ
「雨さん!
稽古つけてくれるんすか?!」
その声に道場にいた隊士が一斉にこちらを向く。
横から抱きついてきたそれを、呆れ顔が溜め息と同時に引き剥がしてくれた。
「毎度毎度懲りねぇな、翔」
「原田さんも飽きずに止めてくれるじゃないっすか」
ケラケラと笑う彼の頭をガシッと掴んで、道場に入る。
「いててっ」と声を漏らしていた翔だったけど、特に暴れることなくじっとしていた。
「おいお前ら!
これから俺と雨が稽古つけてやる。
一人ずつじゃなくてもいい。
覚悟ができた奴だけかかって来い!」
不敵に笑う彼に道場が別の意味で騒がしくなる。
遅れて私も道場に入り、左之の横で止まる。
瞳だけ動かして、背の高い左之を見る。
視線に気づいた彼は、フッと笑って翔を掴んでいた手で私の頭を撫でた。
左之は私の助けて欲しい時にいつもそこにいる。
稽古の最中だというにも関わらず、私の神経は無意識に彼に集中していた。